高校1年になりました4
「バッシュ買いに行くのに付き合ってくんね?」
可愛い清志くんのお願いを断るわけがない。
「もちろん」と返すと、明日の待ち合わせ場所と日時を決めて電話を切った。
『清志くん』
「!名前っ!!」
目についた柔らかそうか蜂蜜色の髪。
驚かすように背後から声をかけると予想通りの反応をもらった。
『久しぶり。背、伸びたね』
「お、おう。久しぶり」
随分と大きくなった彼は少し頬を染めた。
うん、可愛さは健在だ。
「行こうか?」と清志くんを促すと、頷いた彼は「ん、」と手を差し出してきた。
『うん?』
「いや、その…ま、迷子になったら困るだろ」
あ、顔赤い。
真っ赤な清志くんに思わず笑ってしまう。
「清志くんが?」「は!?い、いや…俺じゃなくて…その…」「ふふっ」「っ!?も、もぅいい!行くぞ!」
歩き出してしまった清志くん。
ちょっと意地悪し過ぎたかな。
あとを追いかけてその手を掴むと、目を丸くした清志くんは足をとめてこちらを見た。
『人も多いし、私この辺の地理にはちょっと疎いから』
「迷子防止!」と繋いだ手を持ち上げてみせると、ちょっと嬉しそうに口を緩めた彼は繋いでいる手に力を込めてきた。
『清志くんは高校とか決まってるの?』
「あー…どうかな、今年の全中次第かな」
そういえばもうすぐだったな。
清志くんのバッシュを買い終わったあと、まだ時間もあるからと近くのカフェに寄ることになった。
清志くんが大会なら、幸くんも健介くんもそれに翔一くもだなあ、と頼んだカフェオレを飲むとオーナーの程ではないけれどなかなか美味しかった。
『皆頑張れるといいなぁ』
「…」
あれ?なんか怒らした?
唇を尖らしてジト目で睨んでくる清志くんにちょっと眉を下げてしまう。
『あの…清志くん?』
「…皆って…」
『え?』
「皆って、誰だよ?」
数回瞬き。
そんな私を拗ねた顔で睨んでくる清志くん。
ごめんね、清志くん。全然怖くないです。
というか嬉しすぎる。
だってようはさ、
『(これ、ヤキモチ…だよね?)』
多分お姉さんを獲られちゃうとか、そんな感覚なんだと思う。
ニヤけそうになる頬をなんとか引き締めていると、「名前?」怪訝そうな顔をされた。
『ああ、いや、その…』
「…」
『ほら、前にあった幸くんとか…他にも清志くんと同い年でバスケしてる知り合いの子達がいてね』
「他にもって…!」
「はぁ」と今度は大きく息をついた清志くん。
なんか呆れられてる気がする。なぜ?
首を傾げたまま見つめていると、「なんかアホらしくなってきた」と清志くんは頼んだジュースを飲み始めた。
いったいなんなのだろう。
「あーあ、早く大人になりてぇ」
『え?何言ってるの?若いうちにもっといろいろしなきゃ勿体無いよ?』
「…なんかババ臭い言い方だな」
『まぁ清志くんよりは年上だしね』
「…たかだか一歳だろ」
それがもう二回りは年上なんだな。精神的には。
曖昧に笑って誤魔化すとそれをどうとったのか分からないけれど、さっきと同じように拗ねた顔をされてしまった。
うーん、今時の子って難しいね。
話題を変えようと「清志くん、彼女とかいないの?」と聞くと「ゲホッ!!」と清志くんがいきなり噎せた。
「大丈夫!?」と隣に移動して背中を擦ると落ち着いた清志くんはナフキンで口を拭うと、盛大に息をはいた。
「…彼女なんて居ない」
『そうなの?清志くんカッコいいのに勿体無いね。
あ、じゃあ好きな子は?』
「…それは……その…いる、けど…」
『けど?』
複雑そうな顔をした清志くんは視線をウロウロさせた後、悔しそうに目を細めた。
「相手のヤツは、他に好きな奴がいるっぽい」
『…そっかぁ』
中学生の恋愛も難しいんだな。
ソッと視線を指輪に落としてから顔をあげると、それを見ていた清志くんはどうしてか、悲しそうな顔をしていた。
『清志くん?』
「…好きだよ、俺。名前のこと」
いきなりどうしたんだろう?
なんだか今日の清志くんはいつもと違う。
「私も好きだよ?」と笑いかけたのに返ってきたのは泣きそうな笑顔。
『…ねぇ清志くん。何処か具合でも悪いの?』
「え?…いや…そんな事は…」
『でも明日も部活なんだよね?そろそろ帰って休んだ方がいいよ』
「帰ろう?」そう言って立ち上がろうとすると腕を捕まれた。
あれ?と思って清志くんを見ると腕を握られている手に更に力がこもった。
「最後に、1つ聞いてもいいか?」
『なぁに?』
「…俺がキスしたいって言ったら、名前はどうする?」
やっぱり熱でもあるんじゃないか。
けど、あまりに真剣な目を向けてくるものだから、今度は誤魔化すことも出来ず、眉を下げて困ったように笑ってみせた。
『そういうのは好きな子に言いなさい』
「……そうだな…」
ガタッと椅子を引いて立ち上がった清志くん。
やっぱり中学生っていうのは繊細な年頃なのかもな。
「行こう」と手を引いて店を出ようとした時、清志くんが指を絡ませるようにして握ってきたのには気づかないふりをした。
だって、これも可愛い年下がじゃれているようなものだと思ったから。
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