中学2年になりました
宮地少年は可愛い。
とにかく可愛い。
それはもぅ幸くんに匹敵するくらいだ。
中学生になった彼は部活にも入ってバスケを頑張っている。
そのせいで、あたしと彼の会う頻度はかなり減ってしまったわけだが、宮地くんは部活がないときは必ずといっていいほど初めて会った公園にバスケをしにくる。
以前、せっかくの部活休みなんだから家でゆっくりすればいいのに、と言ったところ、
「名前に会いたいんだ」
なんて眉を下げて唇を尖らせて拗ねたように言うものだから、思わず自分より大きなその体に抱きついてしまったことがある。
そして今日も宮地くんは懲りずに公園に会いに来てくれている。
「名前?大丈夫か?」
『え?』
ボーっとしていたせいか、宮地くんはリズムよくついていたドリブルをやめてあたしの顔を覗き込んできた。
「大丈夫だよ?」と笑って返したとき、ブーブー、とポケットで携帯が震えた。
『ちょっとごめんね?』
宮地くんに一言断って開いた携帯には一件のメールが受信されていた。
メールの大半は、心配だからと携帯を買ってくれた本人であるおばさんなのだが、どうやら違う人からみたいだ。
メールを開いて中を確認すると、最近見るようになった送信者の名前を呟いてしまった。
『幸くんだ』
メールの内容は練習試合があって少しだけ出れた、という簡潔なものだった。
それに目を細めて小さく微笑みながら、すぐに返信メールを作成しようとしていると、横から不機嫌そうな顔が携帯を覗き込んできた。
『宮地くん?』
「…」
無言で携帯の画面を見たあと、宮地くんは眉を寄せたままあたしに視線を向けた。
「…幸って誰だよ?」
『え?』
まるで拗ねたような言い方に一瞬反応できずにいると、宮地くんの表情はますます皺がよった。
もしかして、これは、
『やきもち?』
「なっ!?」
顔真っ赤にして固まった宮地くん。
あ、少し意地悪だったかな。
すぐに冗談だと笑おうとすると、宮地くんが小さな声で一言。
「……悪いかよ…」
何この可愛い生き物!
強烈すぎる宮地くんの返事に驚きながらも微笑んで返すと宮地くんは罰が悪そうに顔を背けた。
『ううん、嬉しいよ。幸くんって言うのはね、神奈川にいる男の子でね宮地くんと同い年なんだよ』
「…じゃあ、…それもソイツが…?」
それ、と言った宮地くんの視線の先には首から下がっているあたしの指輪。
『…違うよ、これは幸くんからじゃないよ』
「じゃあ…彼氏、かよ?」
言いにくいのか、目線を合わせないまま聞いてくる宮地くんに苦笑いを返す。
『…彼氏、から貰ったけど、でも、今は彼氏はいないよ?』
「??」
意味が分からないというように非常に可愛く首を傾げる宮地くんに今度はにっこりと笑みを向ける。
『会えないけど、会えないけど特別な人から貰ったの』
「…ふーん…」
「なんとなく分かった」と宮地くんは言うと、また地面にボールをつき始めた。
嘘は言ってないよね。
ドリブルをつく宮地くんの背中を目で追いながらギュッと指輪を握ったのはほぼ無意識だった。
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