小学生になりました4
『東京に??』
「そうよー」
ニコニコと笑顔見せながら言うおばさんに思わずため息をついた。
この土地に移り住んで6年。
なんとかやってきた小学生も終わり、もうすぐ中学生にあがる。
そんな時にいきなりのおばさんの「東京へ戻る」という言葉に驚くのは当然だ。
『どうして急に…』
「ふふふ、実はね!東京の中学校で名前ちゃんに似合いそうな制服の学校を見つけたのよ!!」
「絶対に可愛いに決まってるわ!」と両手を組んで笑顔で話すおばさんに、再びため息だ。
『…お隣の笠松さんには言ったの?』
「え?…それがねー…」
踊るよな勢いで回っていたおばさんが私の質問に動きを止めて苦笑いした。
「さっき笠松さんのところに行って話してきたんだけど…話を聞いてた幸男くんが、拗ねて部屋に籠もっちゃったらしいのよ」
『幸くんが?』
「名前ちゃんと離れるのが相当嫌みたい
だから…」
「名前ちゃん、幸くんのことお願いね」とウインクをしてきたおばさん。
え?と聞き返した時には、おばさんは目の前から居なくなっていた。
『幸くん、』
「っ、」
隣の笠松家にお邪魔するとすぐに幸くんママが彼の部屋まで案内してくれた。
ノックをしてから部屋に入るとベッドの隅で丸くなった幸くんが目に入った。
『 幸くん、』
「っ、名前姉…」
『…ごめんね、幸くん』
眉を下げて微笑むと、幸くんの目から大粒の涙が流れた。
幸くんの涙を見るのは初めてではないけれど、今日の涙は私の心を大きく抉った。
「おれ…おれ…!!」
『うん、』
「おれ、名前姉に、っずっと…ずっと見てて欲しかった…!
バスケ、上手くなるとこ、見てて欲しかった、なのに…なんで、」
「なんで東京に行っちゃうんだよ!」と幸くんは涙で濡れた真っ赤な目であたしを見た。
本来ならば、こんな幸くんを見たら罪悪感で心がいっぱいになるのかもしれない。
でも私はというと、ウサギのように目を赤くさせてベッドの上から見上げてくる幸くんはかなり可愛いのだ。
今すぐにでも近づいて、その頭をグシャグシャと撫でてあげたい所だが、そうもいかない。
ふうっと息を吐いてから、できるだけ優しく微笑むと、幸くんは驚いた顔をした。
『…あたしも寂しいよ。ずっと幸くんの頑張るところを見てたいよ…でも、おばさん達にワガママ言うわけにはいかないんだ』
「っ、」
『だからね、幸くんに約束して欲しいの』
「え?」
『東京にも名前が届くくらい有名になって欲しい
すごい選手になって、そのプレーを見せて欲しい』
「どうかな?」と首を傾げると、いつのまにか泣き止んだ幸くんは目を見開いたあと、ブンブンと頷いた。
「約束する!!俺、絶対すげえ選手になるよ!!」
『うん、東京で幸くんが有名になるの待ってるね』
にっこりと笑って幸くんに近づいてその頭を撫でると、幸くんは可愛らしくはにかんだ。
「…なぁ名前姉」
『ん?なぁに?』
「クラスの女子がさ、大好きな人がいたらその人とケッコンするって言ってたんだ」
『うん?』
「だからおれ…名前姉とケッコンする!!」
『へ!?』
「ダメかな?」ショボンとした顔をした幸くん。
いきなりのプロポーズ?に驚いたものの、所詮は小学生の言ってることだ、それに可愛い可愛い幸くんからのお誘いを断るわけにも行かない。
『ふふ…じゃぁ、幸くんが大きくなっても、まだ私と結婚したいと思ってくれてたら、そのときはお願いね?』
幸くんの頭を撫でていた手で彼の手を握ると、雪くんはぱあっと笑顔になって。
「約束だぞ!」歯を見せて笑った。
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