小学生になりました3
神奈川に引っ越してきて、はや6年。
私は来年中学生になる。
やっと中学生かー、と思いながら指輪を手にのせていると、誰かが部屋のドアをノックした。
『はーい?』
「名前姉、」
入ってきたのは私よりも少し背の低い男の子、幸くんだった。
『幸くん、どうしたの?』
「近くの公園に練習しに行くけど…名前姉も行かねぇ?」
控えめに聞いてきた幸くんの頬は少し赤い。
幸くんがわざわざ誘いに来てくれるなんて…感動で目の前が揺れた。
年取ると涙腺が緩むというけれど、私は今12才のはずである。
可愛い可愛い幸くんに笑って頷くと、幸くんは嬉しそうにパッと表情を明るくした。
『行こうか、』
「うん!!」
ボールを持ったまま階段を駆け降りる幸くん。
そんな彼の姿を見ながら、後をついていく。
「あら?出かけるの?」
『うん、幸くんと公園まで行ってくるね』
「気を付けてね?」と心配そうに声をかけてくれたおばさんに一言返してサンダルを引っ掻けた。
ガン、とボールがリングに跳ね返る音がした。
幸くんは悔しそうに顔をしかめて、ボールを拾った。
こんな彼を見るのは初めてではない、幸くんがバスケを初めてからというもの、こうして彼の練習を見るようになった。
シュパ、今度は綺麗な音がした。
さっきとはうって変わった明るい顔をした幸くんがこちらを向いて、見てた?というようにあたしを見た。
『さすが、幸くん!!』
パチパチと拍手を送ると、幸くんは照れたように笑ってまた、ボールをつき始めた。
ボールをつく幸くんを見ながら、前の世界の彼を思い出す。
そういえば、あの人もバスケをしていて、よく私を練習だと言って公園なんかに連れていったな、
ボーッとしていると、「名前姉」幸くんの心配そうな顔が見えた。
『あ、ごめんね
ちょっとボーッとしてた』
「…」
『?どうかした?』
「…名前姉って、いつもそれ、触ってるよな」
それ、と言った幸くんの視線の先にあるのは首かかった指輪だ。
『そうかな?』
「うん、…それ、そんなに大切なのか?」
じっと指輪見ながら聞いてくる幸くんに苦笑いを返す。
『…うん、とっても大切なものなんだ』
ヘラリと笑って幸くんを見ると、幸くんは「ふーん」とちょっと拗ねたように返してから、またゴールに向かい始めた。
そんな彼を見ながらまた指輪に触れる。
この指輪はたった一つの私と前の世界をつなぐもの、そして彼の“形見”なのだ。
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