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case21 桃井さつき


『…うわあ…くっきり付いてる…』


部屋に備えついている鏡の前で盛大なため息をついてしまう。
まさかキスマークつけられるなんて。
しかもこんな見える所に。
仕方ないからと、とりあえず絆創膏をつけながらぼんやりと先程の赤司征十郎とのやり取りを思い出した。


“やっぱり映えますね。貴女には赤が”


怖かった。
それはもう物凄く。
でも、まあ今日の昼間あれだけ動いた甲斐はあったかな。

集めた情報から考えると、“前の”私と関わりのあった人たちは15人。
赤司征十郎。実渕玲央。葉山小太郎。黛千尋。緑間真太郎。高尾和成。宮地清志。黄瀬涼太。笠松幸男。青峰大輝。今吉翔一。紫原敦。氷室辰也。木吉鉄平。黒子テツヤ。
そしてこの中のうち“自称彼氏”を名乗っているまたは名乗りだしそうのは、黒子テツヤと今吉翔一、それに宮地清志と…あとは緑間真太郎の四人を抜いたうちの11人。

この11人のうち、誰か一人本当のことを言っているのか。それとも全員嘘をついているのか。
もしくは…これは考えたくはないけれど、全員本当のことを言っているのか。
流石にそれはないないと首をふっていると、コンコンと部屋の戸がノックされた。
誰だろうか。
「はい」と返事をしてから戸を開けると、待っていたのは桃色の彼女。


「名前さん、そろそろ午後れ……」

『?さつきちゃん?』


いつも通りの笑顔で話しかけてきた桃井さつきだったが、急に顔色を変えた。
どうしたのだろうか?
「さつきちゃん?」と首を傾げて桃井さつきの顔を覗くと、いつもはパッチリ開かれている桃色の瞳がスッと細まった。


「…それ、どうしたんですか…?」

『え?…あ、ああ、これ?さっき虫に刺されて…』

「…虫に、ですか?」

『う、うん』


ジッと首もとの絆創膏を見つめる桃井さつき。
鋭いその視線に思わず一歩下がりそうになると、桃井さつきの白い手に腕をつかまれる。


「…ここ結構虫が多いですよね!」

『へ?…あ、う、うん。そうだね』


「私も昨日の夜刺されたんですよー」あれ?なんかいうも通りになってる?
さっきまでの雰囲気が嘘のように明るくなった彼女に、パチパチと瞬きをしていると「どうしてんですか?」と小首を傾げてきた。
うん、可愛いですね。さすが美少女。
「なんでもないよ」と首をふって、午後練の準備をするために一度部屋へ入ると、扉を閉めたとき桃井さつきが何か呟いた気がした。


「“悪い虫”はぜーんぶ駆除しますよ?」











「あら?名前さんそれどうされたんですか?」

『え、あー虫に刺されて…』


体育館へ行くと、桃井さつきと同様に相田リコも絆創膏について指摘してきた。
目敏い子達だなあ。
笑って誤魔化すと「大丈夫ですか?」相田リコが心配そうに眉を下げた。
「大丈夫大丈夫」とヘラリと笑っていると、ガバッと右腕に何か柔らかい感触が飛び付いてきた。


「何かあったらなんでも言って下さいね!名前さんのためならなんだってしますから!」

『あ、あはは…ありがとうさつきちゃん』


ニコニコと笑う桃井さつき。
さっきもだったけれど、時々この子の雰囲気が変わるのは気のせいだろうか。
ギューっと柔らかい胸を腕に押し付けてくる彼女に内心苦笑いを溢していると、「桃井」凜と声が後ろから聞こえてきた。


「あ、赤司くん。どうかしたの??」


赤司くん。
その言葉にほんの少し反応してしまった。
チラリと振り向いて赤司征十郎を見ると、バッチリ目が合ってしまう。
鮮やかな赤色の両目。
あ、今は俺司くんなんですね。


「…名前さん?どうかしましたか?」

『え?あ、いや……』

「体調が悪いのでしたら、部屋にお戻りになって休んだ方がいいのでは?お送りしましょう」


いえ、それは結構です。
さっき痛い目にあったばかりなので。
“丁重”にお断りしようとすると、それよりも早く私と赤司征十郎の間に桃色が表れる。


「私が送るから、赤司くんは練習に専念してて?」


…なんだか口調が強く感じるのは気のせいですよね。
気のせいであって欲しい。
少しの間のあと、赤司征十郎はチラリと私を見てから「それじゃあ頼むよ」と意外にもすんなりとコートの中へ戻っていった。


「…行きましょうか、名前さん」

『あ、う、うん』


まるで有無を言わせぬように腕を掴んできて、歩き始める桃井さつき。
なんだか怒っているように見える。
無言で歩く彼女に連れられてついた先は私の部屋……ではなく。


『…倉庫…?』

「ちょっと要るものがあったの思い出して」


「すみません」と一言言うと桃井さつきは倉庫の中へ。もちろん私の腕を握ったまま。
自然と桃井さつきと一緒に中へ入ると、思っていたよりも中は綺麗に整頓されていた。
倉庫だなんて言うから、もっと埃っぽいと思ったのに。
珍しいものを見るように中を見回していると、ふいに掴まれていた腕が解放される。
あれ?と思って桃井さつきを見ると、ガンっ!と勢いよく扉の閉まる音がした。
……閉まる音?


『は!?ちょ、ちょっと!?さつきちゃん!!なんで閉めるの!?』

「…すみません名前さん。しばらくそこに居ていただいていいですか?」


扉越しに聞こえる冷たい声。
あの明るくて可愛い彼女はどこへ行ったんですか。


『な、なんでこんなことするの??私、さつきちゃんに何かした?』

「……名前さんは何も悪くありません。悪いのは…名前さんの周りをウロチョロするアイツらです」

『あ、アイツら?』

「名前さんの記憶がないのを良いことに……その絆創膏の下、キスマークですよね?付けたのは赤司くんでしょ?さっき赤司くんが話しかけてきたとき、肩が小さく揺れてました」


よ、よく見ていらっしゃる。
違うよ、キスマークなんがじゃないよと否定したいのだけれど、多分何を言おうと桃井さつきには見破られるだろう。
さあどうしたものかと肩を落としたとき、頭に浮かんだのは我らが主人公。


『さ、さつきちゃんがこんなことしたら、黒子くんだって悲しむよ!?』


名案だ!とばかりに声を張り上げて訴えると、扉越しにほんの小さな笑い声が聞こえた気がした。


「…テツくんのことは好きですけど……名前さんが私のものになってくれるなら、テツくんは…」


“いらないかな”


倉庫の中に響いた冷たい声。
桃井さつきもアウトだったんですね。
見る目がなさすぎるぞ私!
ゴンと額を扉へ打ち付けると、「名前さん」怖いくらいに優しく桃井さつきが名前をよんだ。


「私、名前さんにお願いがあるんです。それを叶えてくれるなら、すぐにここから出します」

『お願い…?』

「…海常のマネージャーを辞めてください」

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