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case18 黒子テツヤ&火神大我


「誰かいるんですか?」



氷室辰也との二人きりの空間に響いた、第三者の声。
落ち着いたその声に扉の方を見ると、ゆっくりと開いたそこから綺麗な水色が見えた。


「…君か…」

「っ、氷室さん、あなたは一体何を…!!」


私たちの姿をとらえた水色の瞳が、初めて怒りを込めて揺らめいた。
小さく息をはいた氷室辰也は、一瞬私と目を合わせたあと、ゆるりと離れていった。


「…俺は行くよ。また、後で…」


スルリと黒子テツヤの横を通って部屋から出ていった氷室辰也。
その一瞬、氷室辰也が黒子テツヤと目を合わせたように見えたのは気のせいではないと思う。
ぼんやりと去っていく背中を見ながら、ほうっと息をはくと「大丈夫ですか?」と黒子テツヤが心配そうに顔を覗いてきた。


『うん、大丈夫だよ…。ありがとう黒子くん、助かった』

「…苗字さん、以前僕は言いました。僕にできることがあるなら、言って欲しいと。だから…少しだけ、弱音を吐いてみませんか?」

『弱音?』


意外な言葉につい聞き返してしまうと、黒子テツヤが頷いた。
確かに愚痴りたいことはたくさんある。
けれど一体どう言えと?
「ヤンデレに囲まれて困ってます」なんて言えるわけない。
いやいやいやと首をふると、黒子テツヤが不思議そうに瞬きをしてきた。
可愛いな、コイツ。


『だ、大丈夫だよ黒子くん。そんな弱音を吐くほどのことなんてないし…』

「ですが…心配なんです…。記憶を失ってから、以前のように笑うことが少なくなってしまった。そんなあなたを見ていると、どうしても……心配で、仕方ないんです」


そんな顔しないでよ。
いい子過ぎるよ、黒子テツヤ。
これが主人公クオリティですか。
柔らかそうな空色の髪を撫でると、泣きそうな黒子テツヤと目があった。


『ありがとう、黒子くん。君は、いい子だね』

「いいえ、そんなこと…」

『記憶、戻せるように頑張るね』


否定しようとする黒子テツヤの言葉を遮って笑ってみせると、黒子テツヤも緩く笑って返してくれた。
やっぱい天使だなあ。
「戻ろうか」と笑ってから、黒子テツヤと部屋を出るといつから其処に居たのか、部屋の前には相棒の火神大我いた。
この子、何してんの?


「わっ、悪い!!です!ぬ、盗み聞き?するつもりはなかったんだけど…」

『え?いや、えーっと…聞かれて困るようなことはないし、別にいいんだけど…』

「甘やかしてはダメですよ、苗字さん」


本当に日本語には弱いらしい。
敬語が明らかに不自然だ。可愛いけれど。
癒しだなあ、と火神大我を見つめていると、ふいに目があった火神大我が照れたように目線をそらした。
ここにもいたのか、天使。


「…っと…火神大我…っす。よろしく…です」

『あ、えーっと…知ってるかもしれないけど、苗字名前です。火神くんとも前に会ったことあるのかな?』

「いや、ちゃんと話すのは初めてっすけど…」

『え?初めて?』


これは珍しい。というか貴重だ。
今まで会ったバスケ部の人たちは、以前の“私”を知っている人たちばかりだった。
そしてそのほとんどが、自称彼氏。
けれど、ここで初対面ということを明らかにしたら、後から嘘はつけなくなる。
つまり、火神大我はシロだ。
この子はマジで天使だということ。
つい考え込んでしまった私を心配したのか「大丈夫か?…です」と顔を覗き込んでくる火神大我。
うん、真っ白だね。きみ。


『あのさ、他にもこの合宿で、私と初対面の人っているかな?』

「え?…どうでしょう。本人に聞いてみない限りは分かりませんが…それがどうかしたんですか?」

『えっ…あー…ちょっとね』


今吉翔一の言った通りかもしれない。
この合宿はチャンスだ。
誰が本当のことを言っているのか突き止めてやろうじゃない!ジッちゃんの名に懸けて!!

この世界に来て一番と言ってもいいほど目を輝かせると、黒子テツヤと火神大我が不思議そうに目を合わせるのだった。

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