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case17 氷室辰也


バタンとドアが閉める音が響いた。
広い合宿所の中、探せば空き部屋なんていくらでもあるわけで。
氷室辰也は私の手を引いて、(ほぼ強制的に)1つの空き部屋へとつれてきた。


「…」

『ひ、氷室くん?』


部屋へと入ったものの、氷室辰也は無言のままだった。
けれど腕を離してくれる様子が欠片もない。
ここから逃げるには先ずこの手をどうにかして貰わなければ。
離してくれませんか、そう言おうとしたとき


『んっ!?』

「っ…名前、んっ、ちゅっ」

『やめ…!…ふっ…ん、』


ひんやりとした冷たい唇が、自分のそれに吸い付くようにあてられた。
しまった!遅かった!!
とにかく氷室辰也を押し返そうと、見た目より厚い胸板を押してみるけれど、もちろんびくともしない。
それどころか、両手を捕まえられた絡めるように壁へ縫い付けられる。


「っ、名前、名前名前名前っ!っ、ずっと……ずっとこうしたかったんだ…」


形のいい唇をそう動かして、厭らしい音わざとたてながら再びキスをしてきた氷室辰也。
もう、ヤダ。この人怖いです。
明らかにダメなタイプの子じゃないか!
こうなったら足を踏んづけてやろうとすると、あろうことか氷室辰也の右足が足の間に割って入れらた。


『っ、ヤダ!やめて!氷室くん!!』

「ダメだよ。他の奴らに触られた所を、ちゃんと消毒しないと」


唇から舌を這うように首筋までおりてきた氷室辰也はザラリとした舌をそこに這わせる。
待て待て待て。


『いやっ……!やめてっ…』

「…ああ、そんな顔しないでくれ。名前の泣きそうな顔も可愛いけど、笑ってる顔の方が俺は好きだよ」


誰のせいだよ、誰の。
チュッと軽いキスを落としてきたあと、パッと両手を離してくれた氷室辰也。
あれ?もしかして離してくれるのだろうか、と淡い期待を一瞬抱いた自分が恨めしい。
今度は抱き締めるように腰に回された氷室辰也の長い腕は、そのまま、服の中へと入っていった。


『っ、氷室くん!!お願い、落ち着いて!!』

「俺は落ち着いているよ?…名前の肌は、相変わらず柔らかいね。こうして背中を擦るだけで、なんだかおやらしい気分になってしまうよ」


妖艶な笑みを浮かべる氷室辰也に、顔の筋肉がおかしくなりそうなほど頬がつる。
そんな私をよそに、慣れた手つきでパチンとブラのホックを外した氷室辰也に、慌てて胸元を押さえた。


『ひ、氷室くん、こういうことはお互いに同意したうえでしないとっ…』

「俺たちは恋人同士なんだから、もう同意しているようなものだろう?」


やっぱりそうましたか!
ですよね!パターンですよね!
「手を退けてくれないかい?」なんて耳元で囁きながら、腕の隙間から大きな手を差し込もうとするのはやて欲しい。


『氷室くん、私記憶がないの!!だから、その…こ、こういうことは物凄く困るんだけど!!』

「大丈夫、心配しなくていい。こうして以前していたことをすることで、思い出すことだってあるだろう?」

『だから!それが本当か分からないじゃない!!』


って…し…しまったああああ!!
なんて事言ってしまったの私!!
慌てて謝ろうと氷室辰也を見上げると、氷室辰也はキョトンとした顔をしたあと、怖いくらい柔らかく微笑んだ。


「…記憶がないのだから、疑心暗鬼になるのも無理はないさ。けれど、だからこそ、君を放ってはおけないんだよ…。俺は、どんな君でも愛しているからね」


頬に落とされた唇。
まるで壊れ物を扱うような手つきに、氷室辰也の想いの強さを感じる。
けれどその想いは、“私”へのものではない。
氷室辰也も、他の皆も勘違いをしている。
そして、その勘違いが“嘘”さえも引き起こしているのだと、どこか冷静な頭で考えてしまった。


『氷室くん…あなたが好きなのは私じゃない。記憶を失う前の“私”でしょ?それなのにどうして…』

「さっきも言っただろう?俺はどんな君も愛していると」

『例えそれが、姿形だけは同じの、全くの別人だとしても?』


怖いくらい純粋すぎる愛情を向けてくる彼に、こんな質問は失礼なのかもしれない。
だけど聞かずにはいられなかった問いを、真っ直ぐ氷室辰也にぶつけると、彼はそれは違うと言うように緩く首をふった。


「君は変わらないよ。記憶があろうとなかろうと、君は変わらない」

『皆がそう言う。でも…どうしたって信じられないのっ。私は…私は、氷室くんみたいな人が好きになるような立派な人間じゃない』

「名前、そんな風に考える必要はないんだ。俺に…俺に任せてくれないか?二人で記憶が戻せるよう頑張ろう。そうすれば何か思い出せるかもしれないし、それに…“例え思い出せなかったとしても”、俺は君の側にいるよ」


優しいはずのその言葉に、ほんの少しだけ違和感を感じた。
それはまるで、“思い出せなくてもいい”。
そう、言われているような。
腰に回されていた手がもう一度頬に添えられて、ゆっくりと氷室辰也の顔が近づいてくる。
それを止めようとしたとき、コンコンと扉をノックする音が私たちの間を通った。

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