case15 紫原敦
「ねえ、名前ちんのこと、食べていい?」
どうも、目が覚めたら黒子のバスケの世界にいて、何故かヤンデレに囲まれる地獄の合宿に参加している苗字名前です。
今目の前には、トトロよりデカイ紫の巨人、紫原敦がいます。
誰か、ヘルプミー。
『…えーっと…今休憩中、だよね?早く戻らないと怒られちゃうんじゃ…』
「練習とかめんどくさいしー、名前ちんといる方が楽しいからいいのー。それよりさー、さっきの質問、聞こえてた?」
「食べていい?」なんて無邪気な様子で首を傾げてくる紫原敦にブンブンと首をふると、えー!と不満そうに唇を尖らせられた。
えーじゃないよ、えーじゃ。
一人でドリンクの継ぎ足しなんて来るんじゃなかった。
「…何でダメなのー?」
『…とりあえず、自己紹介してもらってもいいかな?初対面だよね?』
「あ、そういえば記憶ないんだっけー?
紫原敦だよー、思い出したー?」
そんな急には思い出すかよ。
そもそも記憶喪失でもないんだけど。
「ごめんね」と首をふってみせると、紫原敦は「んー…」と少し考えるように首を捻った。
「まあ、いっかー」
『…はい?何が…って、うわっ!!』
「名前ちん、相変わらず軽いねえ。わたあめみたいだしー」
『お、おおおお降ろして!!』
急に何かに納得したのかと思うと、脇の下に手を差し込まれて持ち上げられた。
それも軽々しいと。
降ろしてもらうおうと腕や足をバタバタと動かすけれど、紫原敦の強いこと。全くびくともしない。
『む、紫原…さん。お、おろして下さい…』
「あれー?俺1年だから敬語使わなくていいよー?」
『あ、うん…じゃなくて!おろしてってば!!』
「怒るよ!」と紫原敦を睨むようにして見ると、「怒った顔も可愛いねえ」なんて呑気笑っている。
ダメだ、会話ができない。
どうしたものかと眉を寄せていると、いつの間にか紫原敦は片手で私を抱え始めた。
この子、人間やめてるの?
「…近くで見ると、余計に美味しそうな匂いがするー」
『しないよ!?私、食べ物じゃないし!!』
「知ってるよ?けど…すごーく…甘い匂いがするんだよねー」
クンクンと首の辺りを嗅ぎ始める紫原敦に、恥ずかしさよりも恐怖心が芽生えてくる。
アウトだよ!この子アウト過ぎるよ!!
どうにかしてこの場を脱しようと考えを巡らせるけれど、悲しいかな、何も思い浮かばない。
さあいよいよどうしようか、と顔を強張らせていると、ニヤリと口の端をあげた紫原敦が顔を近づけてきた。
「やっぱり、ちょっと食べちゃおうかなー」
『はっ!?っ!!??』
怪しすぎる台詞のあとに、いきなり噛みつかれた唇。
遠慮なく舌までいれてきた紫原敦は、あろうことかシャツの中に空いている片手を差し込んできた。
いやいやいや!!ちょっととか言うレベルじゃいよね!?
『っぁ、やめ……あっ!』
「名前ちんの体、いつ触っても柔らかくて美味しそうだよねー……ねえ、このまま最後まで食べていい?」
ダメに決まってんだろ。
そう言いたいのに、口から漏れるのは恥ずかしい声ばかり。
首もとに吸い付きながら、ブラの上から胸を触る紫原敦に、もう悲鳴をあげてしまおうと思ったときだった。
ブーブー
『け、携帯!!!!携帯鳴ってるよ!!紫原くん!!』
「えー?いいよそんなのー」
『良くないって!!ほら!早く出て!!』
このチャンスを逃してなるものかと、必死に出るように促すと、紫原敦は渋々といった様子で私をおろして電話に出た。
電話をかけてくれた人、ありがとう!!
感謝の言葉を胸に、いざ立ち去ろうとしたけれど、見た目によらず抜かりない紫原敦に腕を捕まえられてしまった。
誰か、この人たちから逃げ切れるどこでもドア持ってきて。
「もしもーし?あ、室ちん??なにー?……えー…でもさー………あー、うん、分かったー。しょうがないから行くー」
はあっとため息をつきながら電話を切った紫原敦は、意外にもすんなりと手を離してくれた。
「練習戻ってくるー。続きはまたあとでねー」
『つ、続き!?だ、ダメだよ!?しないからね!?』
「えー?なんで?」
『な、なんでって…こういうことは、付き合ってる人たちがすることで、「それならいいじゃん」……え?』
「俺たちなら、別にいいよねー、それ」
「じゃあねー」と手をふりながら体育館の中へと戻っていく紫原敦。
最後に要らない爆弾を落としていった彼に、もう泣きたくなった。
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