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case14 宮地清志


ちょっとだけ、早く目が覚めてしまった。
今日からはちゃんとした調理師の免許を持ったお手伝いさんも来るということなので、朝食を作る必要もないし。
散歩でも行こうか、と着替えて外へ出ようとしたとき。


「あれ?」

『っ!?た、高尾…くん?』


部屋のドアを開けた瞬間、目に入ったのは今当にノックをしようとしていた高尾和成だった。
この子、何しに来たの…?
ドアノブを持ったまま固まっていると、そんな私をやそに高尾和成は「早起きですねー!」なんて笑って見せた。


『えっと…お、おはよう高尾くん。…どうして、ここに…?』

「嫌だなあ!名前さんに会いたく来たに決まってるじゃないですか!!」


決まってねえよ。
勝手に決めるなよ。
とりあえず逃げようと「ごめん、ちょっと忘れ物があるから」と扉を閉めようとすると、私が閉めるよりも早く高尾和成の手が扉を掴んだ。


「…入ってもいいですか?」

『だ、ダメ!えーっと…昨日疲れて片付けもせずに寝たから、汚くて…』

「じゃあ、廊下でいいんで、ちょっと話しましょうよ」


ニコッと笑っているはずなのに、高尾和成の目は全く笑っているように見えない。
本当は出ていきたくなんてないけれど、部屋にいれるのはもっと不味い。
仕方なく力を緩めてドアを開けてから部屋を出ようとすると、開けた瞬間に腕を勢いよく引っ張られた。


「名前さん…」

『ちょ、た、高尾くん!?は、離して!!』


強い力で抱き締めてくる高尾和成。
コイツ、朝っぱらから何考えてんだ!
慌てて押し返そうとしたけれど、その手を捕まれて逆にしまった部屋の扉に押さえ付けられてしまった。


「…俺、ずっと怒ってたんすよ?名前さん、他の人と仲良すぎるんですもん」

『そんなこと……私、知らない人ばっかりだし…』

「……その“知らない人”の中に、俺も含まれてるんすかね…」


悲しそうに目線を下げたかと思えば、次の瞬間、まるで獣を見つけた狼のように私を見てきた。
ヤバイ、これは不味い。
自分の脳内でサイレンの音が響く。
スルリと頬を撫でる手に冷や汗をかいたとき、「おい、何してんだ」と低い声がした。


「っ…宮地さん…」

「高尾、お前何やってんだ?マジで轢くぞ」


明らかに怒気を含んだ声の正体は、高尾和成の先輩である宮地清志だった。
ギュッと眉を寄せて高尾和成を見る宮地清志に、高尾和成はゆっくりと手を離した。


「…宮地さんには、関係ないことっすよ」

「馬鹿かてめえは。自分の後輩が他校のマネージャーにアホなことしようとしてんの、関係ないっつってほっとくと思ってんのか?」


「行け、」というような宮地清志の目配せに、高尾和成はチラリと此方を見たあと、名残惜しそうに去っていった。
助かった。
ホッと息をついたとき「うちの一年が悪かったな」宮地清志が罰が悪そうに眉を下げた。


『いえ、その…ありがとうございます。助かりました』

「いや…つーか敬語いらねえよ。秀徳3年の宮地清志だ、よろしくな」

『はい、じゃなくて…うん、よろしくね宮地くん』


小さく頭を下げると、宮地清志の口許が緩んだのに気づいた。
「どうしかた?」と首を傾げると、宮地清志が少しだけ目線をあげた。


「…おれ、お前が記憶なくなる前、結構仲良かったんだぜ?」

『……“仲良かった”って…あの…』

「もちろんダチとしてだよ。変な勘繰りすんな」


「焼くぞ」なんて物騒なことを言いながら額を小突いてきた宮地清志。
怒っているような口振りのわりに、耳が赤くなっているものだから、ついつい笑ってしまうと今度は頬を摘ままれた。軽くだけど。


『いっ、いひゃいよ!宮地くん!!』

「…なんか、拍子抜けしたわ。あんまり変わらねえのな」

『へ?』

「記憶が戻ろうと戻らまいと、苗字は苗字だってことだよ」


優しさを含んだ声色にパチパチと瞬きをしていると、いつのまにか頬っぺたが解放されていた。
「何アホ面してんだ」と私を見て笑った宮地清志は、その大きな手でクシャリと私の髪を一撫でした。


「なんかあれば言えよ。力になれることなら手え貸してやらないこともないからさ」

『…宮地くん…』


ここに、本物のイケメンがいます。
黒子くんの続いてこんないい人に出会えるなんて!
私の人生捨てたもんじゃなかった!!
「ありがとう」と宮地清志にお礼をいうと、フッ微笑んだ宮地清志は「またあとでな」と行ってしまった。

本物のイケメンて、素晴らしい。

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