夢小説 完結 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

case13 木吉鉄平&相田リコ


ああ、ここ、本当に黒バスの世界なんだな。
(夢かもしれないけど)

目の前で繰り広げられる人間業とは思えないバスケをほうっと見つめる。
ゴールを決める度、森山由孝や黄瀬涼太が一々こちらを見てくるのは無視をしよう。
見る以外しなくていい、むしろするなと言われているためただただじっとしているのだけれど、やっぱりなんだか申し訳ない。


「手伝いたい?」

『見てるだけって、なんだか申し訳なくて…』

「病み上がりなんだから気にするな」

『でも…』


痺れを切らして監督にお願いしてみたけれど、やっぱり簡単に頷いてくれない。
病み上がりだと気にするくらいなら、むしろ連れて来ないで欲しい。
なんて内心文句を吐きながら、「お願いします」と頭を下げると困ったように眉を下げられた。


「いいんじゃないですか?見てるだけじゃ、つまらないでしょうし」

「ん?…ああ、木吉くんか」


監督との間に急に現れた影。
驚いてそちらをみると、穏やかに笑いながらタオルで汗を拭う木吉鉄平がいた。
「見てるだけじゃ暇ですよね」と笑う彼の笑顔は信用していいものだろうか。


「しかしなあ…手伝いと言っても何をさせるか…」

「あ、それなら、私たちと一緒に料理しませんか?」


あ、相田リコだ。
というか今この子、“料理”って言いました?
木吉鉄平の後ろから顔を出した彼女の言葉に、一瞬顔を強ばらせると、何を想ったのか、相田リコがああ、と頷いた。


「誠凛高校2年の相田リコです」

「おお、そうだそうだ、自己紹介してなかったな。誠凛2年の木吉鉄平です。木は、この〜木なんの木、気になる木〜の木で…「長いわよ!」」


思い出したように自己紹介を始めた二人。
まあ、聞かなくても知ってるんだけどね。
よろしくね、と笑ってみせると、二人とも嬉しそうに頷いてくれた。
いい子達!だと、信じたい。


『…あの、ところで…料理っていうのは?』

「私と桃井さんの二人で、今から夕飯の準備をしようと思って」


それ、ダイジョウブ?
「腕がなるわ!」とはりきる相田リコの後ろで誠凛の選手たちが顔面蒼白にしている。
そんな相田リコに声が聞こえたのか、「そうですね!」と頷く桃井さつきにキセキの世代プラス桐皇の選手たちも冷や汗を流していた。
一体どんなポイズンクッキングをするのだろう。
興味はあるけど、食べる勇気はない。
二人の作っていたレモンのハチミツ漬けを想像しながら顔をひきつらせていると、相田リコに腕を捕まれた。


「名前さんも一緒にしましょうよ!」

『え…いや、えっと……』

「楽しいですよ!」


美少女二人に挟まれるのは女の私でも悪い気はしない。
けど、するならば一人でさせてほしい。
でなきゃきっと集中できないし。


『…えっと…料理は、その…一人でするのが好き派でですもんね』

「大丈夫です!今日のメニューはカレーの予定なんですけど、大きい鍋が3つあるので、それぞれで1つずつ作りますから!」

「それぞれ別れて作ったほうがやり易そうですもんね」


やり易いとか、そういう問題ではないよね。
「ダメですか?」残念そうた見てくる二人の美少女に、根負けして分かったと頷くと、早速とばかりに腕を引かれた。


「行きましょう!行きましょう!」

「頑張りましょうね!」


私の胃、穴があくかもしれない。










「…死ぬかと思ったっス…」

「確かに…」


ご飯を食べたはずなのにゲッソリとしている海常のみんなについ苦笑いを落とす。
よく食べきったな、あの量を。
桃井さつきの野菜丸ごとカレーや相田リコのプロテインカレーを食べる彼らの勇姿を、忘れることはないだろう。多分。


「さてと、俺たちは風呂行ってからミーティングな。名前はミーティング出なくていいからな」

『え、でも…』

「疲れてるだろう、早く寝ろよ」


ポンポンと頭を撫でる笠松幸男。
この男前な彼だけしか知りたくなかったな。
「ありがとう」とお礼をいってから、気を使って与えられた自室へ戻ると、早速お風呂に行くことにした。


「…あれ、苗字さん?今風呂上がりですか?」

『あ、木吉くん。うん、お疲れさまです』


お風呂から上がって浴場の暖簾を潜ると、タオルを首にかけた木吉鉄平がいた。
「お疲れさまです」とにこやに返してくれた彼は何を思ったのか、私の頭の上に手をのせてきた。
私、先輩だよね。


「……本当に良かったですね、こうして元気になって」

『あー事故のこと、かな?…あんまり実感ないんだけどね』

「ははっ…けどいろいろと忘れてしまったのは、残念ですね」


少しだけ落ちた声のトーン。
記憶喪失になったことを気遣ってくれているんだ。
なんだか胸がいたい。
気にしないでと首をふって、目の前の彼を見上げると、頭の上に乗せられていた手が頬へと移動した。


「…気にしないのは、難しいですね…」

『き、よし…くん?』

「さすがに、ここまで忘れられてると、少しキツいです」


ニコニコと笑っているイメージが強いからか、今の木吉鉄平は少し怖い。
大きな体を丸めて近づいてくる顔に、不味いと慌てて距離をとろうとしたけれど、それよりも早く腰を捕らえられてしまった。
ヤバイ…この子もアウトでしたか!
「待って!」とか「ストップ!」なんて言ってみるけれど、木吉鉄平の止まる気配がない。
諦めて目を瞑ったとき。


「あれー?何しとるん?」

「……今吉さん、ですか」


現れたのは今吉翔一だった。
助かった…。
ホッと肩の荷をおろして、少しだけ緩まった木吉鉄平の腕から逃れると、木吉鉄平がは一瞬苦しそうに顔を歪めてから、すぐに笑ってみせてきた。


「すみません、ちょっと冗談が過ぎましたね」

『…冗談…』


嘘だ。絶対に嘘だ。
笑顔の木吉鉄平に内心ダラダラと冷や汗をかきながら、「あはは…」と下手くそな作り笑いを返すと、木吉鉄平が残念そうに眉を下げた。


「…それじゃあ、そろそろ行きますね。おやすみなさい」

『う、うん。…おやすみ…』


歩いていく背中を見送ってから、はあっと大きなため息をつくと、「危なかったなあ」と今吉翔一が肩に手を置いてきた。


『…ありがとう、今吉くん』

「どういたしまして。それにしても、木吉まで自分のこと好きやったっちゅうんは知らんかったわ」


「モテモテやなあ」なんてケラケラ笑う今吉翔一。
誉め言葉のつもりか知らないけれど、今は嫌みにしか聞こえない。


『…嬉しくないよ、それ』

「わはは、冗談や冗談。堪忍な」


謝ってはいるけれど、実際はそんな気さらさらないだろう。
わざとらしくもう一度ため息をつくと、今吉翔一が「けど…」と笑みを深めた。


「誰が本当のこと言うとるか。この合宿、それが分かるチャンスなんわ確かやな」

『…そうかな?』

「ま、任しとき」


何かを企むようにニヤリと笑う今吉翔一。
なんだか頼もしく見える。
「お願いします」と頭を下げてみせると、思っていたよりもずっと優しい手が頭を撫でるのだった。

prev next