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case5 黄瀬涼太&笠松幸男


結論から言おう。
桃井さつきの作戦は失敗に終わった。





まず、黄瀬涼太。
彼に「なかったことにして欲しい」そう言った瞬間
キラキラした金色の瞳から大粒の涙がいくつも零れてきてギョッとした。


「なんでっ…なんでそんなこと言うんスか!?おれ、おれ、名前さんに嫌われちゃった…?イヤだ…イヤだ!イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!絶対にイヤだ!!名前さんと別れるなんて、そんなの…!……そんなの、絶対に許さない…!!」


物凄い力で肩を掴んでくる黄瀬涼太。
その目の色が暗いのが分かる。
あ、これダメだ。ヤバイやつだ。

イヤだイヤだと泣き叫ぶ黄瀬涼太はすがるように私の肩に頭をおく。


「お願いだからっ…そんなこと言わないで……!」


この人、目が溶けちゃうんじゃないのってくらい涙を流す黄瀬涼太。
こんな姿を見せられて、再び別れを切り出せば黄瀬涼太はどうなるかわからない。
これ、折れるしかないのか。

諦めに似た感情で、黄瀬涼太の金髪を撫でると黄瀬涼太はモデルとは思えないグシャグシャの顔をあげた。


『ご、ごめんね、黄瀬くん。私が間違ってたね…』

「じゃあ、別れたりしないっスよね?名前さん、俺のこと好きっスよね??」

『え"っ…あー…う、うん…好き、だよ?』


自分でも分かるほど歯切れ悪く返すと、それでも黄瀬涼太は嬉しそうに目を細めて、「涼太って呼んで欲しいっス」と抱きついてきた。

この勝負、それを拒めなかった私の負け。










次に笠松幸男。
赤司征十郎や、黄瀬涼太はともかく、笠松幸男なら大丈夫だろうと踏んだけれど、こちらもあえなく失敗した。
「関係をリセットしてくれないかな?」と切り出せば、笠松幸男の目の色が変わった。


「…俺…お前の役に立ててないのか…?」

『え、いや…そういうわけじゃ…。ほ、ほら、笠松くんだって部活してるのにほとんど毎日ここに来るの大変だろうなって思って』

「大変?んなわけねぇだろ?俺は、お前のためならなんだってするぞ?名前が寂しいっつーなら毎日見舞いにだってくる!それでも足りないっていうなら、学校も、部活だって差し置いてお前に会いに来る!!…なぁ、俺は何をすればいい?お前のために何をできる?」


この人は、私の知っている笠松幸男ではありません。
私の知っている笠松幸男は、女の子が苦手で、でも部活では男気溢れる頼れる主将のはず。
それが…私>バスケですと…?
背中に嫌な汗を流していると、笠松幸男の逞しい腕が私を閉じ込めた。


「…名前…ごめんな…。俺、お前を放してやれない。けど、お前のためならなんでもするから…だから…」


「だから、そんなこと言うな…」だなんて。
この笠松幸男はいったい誰なんですかね?
黄瀬涼太に負けないくらい強い力で抱き締めてくる笠松幸男。
ここで引いては黄瀬涼太の二の舞。
そう思って心を鬼にして笠松幸男にそれでも無理だ、と言おうとしたとき。


『んむっ!?』


それを言わせないとばかりに、笠松幸男は唇を塞いできた。
私、こっちに来てから何回キスされてます?

しかもただ唇を合わせるだけじゃない。
笠松幸男のザラリとした舌の感触が自分の舌に伝わってくる。
これ、DEEPKISSってヤツですか…?
思わず笠松幸男の胸板を叩くと、その手を捕まれてベッドに押し倒される。
ヤバイ、これはヤバイ!!


『んっ!ちょ、ちょっと待って!!』

「…悪いが、別れるなんてことできな『そ、そうじゃなくてっ』」

『え、えっと…か、笠松くんと別れるなんてう、嘘デス…!』

「…本当、か?」

『う、うん。だから、その…こ、こういうことを無理矢理するのはやめて欲しいなぁ…。その、こ、心の準備が…』


ジッと見てくる笠松幸男を頑張って見返すと、フッと笑った彼はゆっくりと体を起こしてくれた。


「そう、だな…。ごめんな、急にこんな…」

『や、その……ねぇ、笠松くん。こんな私のどこがいいの?…私、特別可愛いわけでもないし…それに、目立った取り柄もない。それなのに、こんな私のどこがいいの?』

「……はは、…やっぱり、お前はお前だな…」

『え?』

「記憶を無くす前にも似たようなこと言われたんだよ。“自分にはなんの取り柄もない”って」


こっちの私もそんなことを言っていたのか。
なんだか不思議だ。
ちょっと目を丸くしたまま笠松幸男を見ていると、彼の目が愛しそうに細まった。


「俺は、お前の全部が好きだよ」


こんなに男前な台詞なのに、今はなんだか凄く重たく聞こえる。
「愛してる」と囁いてくれる笠松幸男に、下手くそな作り笑いを返すと瞼にキスを落とされた。

笠松幸男にも惨敗。


ここで理解しないほど私は馬鹿ではない。
黄瀬涼太、笠松幸男がダメだったのに、赤司征十郎に通じるわけがない。
赤司征十郎にこの作戦を仕掛ければ、命がないかもしれない。


こうして、私と桃井さつきの作戦は幕を閉じたのだった。
誰か、本気で助けて下さい。

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