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case6 緑間真太郎


神様というのはとことん意地が悪いらしい。
どうして私をもとの世界に目覚めさせてくれないのか。
赤司征十郎から届いた高そうな林檎を食べながら嘆いていると、コンコンっとドアがノックされた。
今度は誰だよ。


『…ドウゾ』

「失礼します」

『…』


お前か、次はお前なのか、緑間真太郎!
「お久しぶりです」と礼儀正しくお辞儀をする緑間真太郎を見ていると、彼が不思議そうに首を傾げてきた。


「…俺の顔に何かついていますか?」

『え…あ、いや…』


キョトンとした顔をする緑間真太郎。
あれ?この子もしかして大丈夫なんじゃない?
ちょっとだけ警戒をとくと、ベッドの横にある丸椅子に緑間真太郎が腰かけた。


「…この場合、初めましてが正しいのでしょう。秀徳高校1年の緑間真太郎です」

『へ!あ、ご、ご丁寧にどうも…。えっと、一応海常高校3年の苗字名前です』

「…先輩の事故のことは黄瀬から聞いたのだよ。…大丈夫、ですか?」


眉を下げて心配してくれる緑間真太郎。
この子、良い子じゃないか!!
“普通”の子に出会えてた感動に、思わず涙ぐむと緑間真太郎がギョッとし。


「な、なぜ泣くのだよ!?」

『あ、ご、ごめんなさいっ。なんかこう…ホッとしちゃって…』


「ごめんなさい」と謝りつつも目を擦っていると、「…傷がつきます」と緑間真太郎にその手をとられた。
すると、緑間真太郎がソッと覗き込むように見つめてくるものだから、「な、なにかな?」と尋ねると、彼の手が目元を拭った。


「…あまり泣かないで下さい」

『あ…す、すみません』

「それに、俺に敬語は要りません」

『あ、う、うん』

「…あなたはもっと自分がどういう存在か自覚すべきなのだよ」

『は、はい…って、え?』

「先輩、あなたは高貴なお方です。そんな人が、俺などに敬語なんかを使う必要は全くないのだよ!」


前言撤回。
この子、今までの中で一番厄介かもしれない…!
呆けた顔で緑間真太郎を見つめていると、私の手元にある林檎を見た彼がハッとした。


「り、林檎を素手で食べているのですか…?」

『え?…あ、うん。こう、摘まんで…』

「なんてことを…!!」


絶望だと言わんばかりに顔を歪めてから、緑間真太郎の動きは早かった。
まず、ポケットから綺麗な白いハンカチを取り出すと、今日の彼のラッキーアイテムだったのであろう消毒液をそれにかけた。
え、と思っている間に、緑間真太郎はそのハンカチで私の手を吹き始めた。


「バイ菌が付いていたらどうするんですか!!」

『え、いや、その…す、すみません?』

「まさか…林檎も自分で剥いたんですか!?」

『あ、うん。そうだけど…』

「誤って先輩の手が傷ついたらどうするのだよ!!」


や、もうこの子手遅れだ。
完全に頭が可笑しくなってます。
ポカーンとしながら、強く手を握ってくる緑間真太郎を見ていると、ポケットから何かを出された。


『…御守り?』

「今日の苗字先輩のラッキーアイテムなのだよ」

『あ、ありが……』


貰った御守りの裏を見たとき、言葉がとまる。
なんで“安産祈願”なわけ?
ピクピクとひきつっていると、それをどうとったのか緑間真太郎は満足そうに笑う。


「肌身離さず持っていて下さい」

『…え、あー…うん』

「明日からもラッキーアイテムを毎日届けるのだよ」

『え!?い、いや、それはいいよ!緑間くんだって大変でしょ??』

「しかし…」


毎日なんて来られては、私の心労が増える。
納得できなそうに眉を寄せる緑間真太郎をどうやって納得させようか、と考えていると、運か不運か病室のドアが開かれた。


「真ちゃーん、まだかよ?」

「…高尾か」

「そろそろ帰んねぇとヤバイぜ?」


高尾和成の登場によって手を離してくれた緑間真太郎。
た、助かった…。
仕方ないとばかりに息をはいて、「今日は失礼します」と頭を下げて出ていくその姿を見届けていると、ドアが閉まる際、高尾和成と目があった。


「またな、苗字先輩?」


ニッと笑ってみせる彼が、どうかソッチではないことを祈ります。

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