夢小説 完結 | ナノ
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来るーcome


どうしてなのかは分からない。
急に会えなくなってしまうだなんて、神様はなんて意地が悪いんだ。

また明日、そう柔らかく微笑む彼の姿が日に日に頭から薄れていく。
このまま私は、赤葦くんのことを忘れるのだろうか。
そして彼も、私のことなんて忘れてしまうのだろうか。


『…いや、だな…』


ボソリと呟いた言葉は暗い帰り道に吸い込まれるようにして消える。
帰って飲もう。
そうすれば、少しは気が紛れる。
少しだけ早足で家に帰り、慣れた手つきで玄関の鍵を開けて扉を開けると、低いヒールを脱ぎ捨てる。
先ずはお風呂に入ろうかな、なんて考えながらリビングの扉を開けた瞬間、


「…名前、さん…?」

『え……あ、赤葦くん…?なの?』


誰もいないはずのリビングに居たのは、紛れもない今一番会いたい人だった。

なんで、どうやって、ここに来たの?
もしかして、ここって夢の中なの?

聞きたいことが多すぎ逆に真っ白になっていく頭が恨めしい。
とにかく何かを言おうと口を開いたけれど、出かけた言葉は直ぐに飲み込んでしまった。


『ちょっ…!あ、赤葦くん!?』

「……本物、なんですね…」


いきなり抱き締められたかと思うと、震える声でそんなことを言う彼に、鼻の奥がツンとした。
ドキドキとうるさいのは、一体どちらの心臓の音だろうか。
微かに震える赤葦くんの腕にソッ自分の腕を乗せると、少しだけ体を離してくれた。


『…ほんもの、だよ?』

「…そう、みたいですね…」


泣きそうになりながら頬を撫でてくる赤葦くん。
こんな顔されては、私まで泣きたくなってくる。
つい堪えきれなくなって、ツッと涙を溢すと、赤葦くんの綺麗な指がそれをぬぐった。


「泣かないで下さい。せっかく会えたのに、そんな顔されては、いろいろと困ります」

『っふふ、いろいろって何それ』


まだ止まらない涙をこぼしながらも笑ってみせると、赤葦くんの目が柔らかく細まった。


「…あのとき言えなかったこと、今、言ってもいいですか?」


どこか不安そうな顔。
そんな顔もカッコいいなんて思ってしまうのは、私の欲目のせいかな。
小さくうなずいてみせると、赤葦くんの腕に更に力がこもった。


「好きです」

『っ』

「貴女が、好きです」

『…うん。私も、赤葦くんが好きだよ…』


赤葦くんも私と同じ気持ちだった。
それは、とても嬉しいはずなのに、次に出てきた言葉は「ごめんね」だった。
赤葦くんのことが好き。
それでも、お互いが想っていたとしても、届かなくなってしまうのだ。

始めてみた彼の白いジャージの裾をつかんで、預けるように額を赤葦くんの胸にあてると、「謝らないで下さい」と赤葦くんが背中を撫でた。


「言うべきじゃないと分かっていたのに、先に破ったのは俺です。だから、名前さんが謝ることなんて何もないんです」

『…悪いのは、赤葦くんじゃないよ。本当に悪いのは…こんな風に私たちを会わせた、理不尽な世界だ』


どうせなら、もう会えない方が良かったのかもしらない。
そうすれば、いつか私たちはお互いの思い出になっていたかもしれないのに。
けれど、私たちの神様はなんて意地悪なのだろう。
また、会ってしまえば、消すことができなくなる。
思い出なんかにしたくなくなる。
だってこんなに…好きが、溢れてしまうから。 

ソッと目を閉じて赤葦くんに寄り添うと、背中を撫でていた手がゆっくりと抱き締め返してくれる。 


「…そうですね…確かに、酷い世界ですね…。けど、それでも俺は…また、こうして会えたことを後悔してませんよ」


耳元をくすぐるように、優しく囁かれた台詞にゆっくりと顔をあげると、嬉しそうに笑う赤葦くんと目があった。
こんな顔も、するんだ。
つられて、自分も頬を緩めると、赤葦くんの整った顔が、ゆっくりと近づいてくる。


「…好きです、名前さん」


二度目のキスは、まるで嘘のように、熱くて甘いものだった。

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