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36 優しい優しい黒猫先輩


「名前、お友達がまた来てくれてるわよ?」

『…帰って、もらって…』


学校に行かなくなって、もうすぐ2週間がたとうとしている。
その間に何度かうちを訪れる人はいたけれど、誰にも会う気にはなれなかった。

優しい皆でも、あの人たちと同じ目をするかもしれない。
冷たいあの目を。

悲しそうに眉を下げて出ていく母の姿に、胸の辺りがチクリと痛んだ。










『もう、夜か…』


ずっと引き込もっていると、時間感覚がおかしくなる。
窓から見える黒い空をぼんやりと見上げていると、コツンと何かが窓に当たった。
何かが飛んできた方向、下を見ると、夜の黒色に紛れた黒髪が目に入った。


『く、黒尾、先輩…?』

「よ、久しぶりだな?」


片手をあげてにっと笑う先輩は、何一つ変わっていなかった。
目を丸くして先輩を見つめていると、先輩が手招きをしてきた。
降りてこい、ということだろうか。
少し迷ったけれど、ジッと見てくる先輩の目に根負けして、自分の部屋から出ることにした。


『…あの、先輩』

「おう、悪かったな。こんな夜中に」

『いえ、それはいいんですが…なんで…』

「ツッキーから、おまえのこと聞いたんだよ」


ツッキー?
誰だろうと首を傾げると「月島だよ」と黒尾先輩は笑った。
猫のようなつり目を細めて笑う顔がなんだか懐かしい。


『…月島くんと、知り合いなんですね…』

「まーな。それより…お前さ、これからどうすんの?」

『…』


そんなの、私だって分かりません。
先輩の質問に思わずうつ向くと、黒尾先輩が小さく息をはいた。


「逃げんなよ名前」

『…けど、もう無理です…私は…』

「無理じゃねぇよ。お前のこと信じてくれる人間だっている。新聞じゃ正当防衛ってなってんだぞ?」

『でも…』


煮え切らない態度の自分が嫌になる。
せっかく励まそうとしてくれている先輩には申し訳ないけれど、やっぱり怖い。
ギュッと下唇を噛んだとき、黒尾先輩の大きな手が頬を包んで、上を向かされた。
向き合った先輩の目は凄く真っ直ぐで、反らせなくなる。


「俺が、絶対に味方になってやる」

『っ、せん、ぱい…』

「お前が助けて欲しいっつーなら、駆けつけてやる。だけど…今俺はお前の側にはいられない。距離的な問題だけじゃねぇぞ?ここで俺がお前を甘やかしても逃げることになるだけだ」

『…それは…』

「逃げるな、名前」


おせっかい。
だけど、今の私にはちょうどいい。
思わず笑ってしまうと、「何笑ってんだ」と額を小突かれた。


『…ありがとうございます、黒尾先輩』

「覚悟、決まったのか?」

『…そんな大層なものじゃないけど…でも勇気、でた気がします』


ヘラリと笑ってみせると、「そうか」と先輩もまた笑ってくれた。

どうせ砕けるなら、当たって砕けてしまおう。
なんて自嘲気味に考えていると、「それじゃあ、帰るな」と先輩が頭を撫でてきた。
「ありがとうございました」と頭を下げると、「いい報告しか待ってねぇぞ」と言ってクシャッと髪を撫でたあと、黒尾先輩は行ってしまった。
いい報告なんて、できるのだろうか。
でも、できたら、いいな。
去っていく背中を見つめてから、部屋に戻ると本の少しだけ明るく感じた。

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