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37 坂田先生の秘策


※視点変更有り
主人公→一護


黒尾先輩と会った翌日。
人のいない時間を狙ってわざと遅く学校に行くと、先ず職員室を訪れた。
SHRの前だから、ちらほらと残っている先生たちの中に目立つ銀髪はすぐに見つかった。


『坂田先生、』

「っ!おまっ!…来たのか…」


眠そうに欠伸をしていた先生に声をかけると、坂田先生の目は見開かれた。
そんなに驚くとは思わなかったな。
そのあとすぐにどことなく安心したように笑う先生に自分も笑って返すと、坂田先生が真剣な顔をした。


「…戻れるか?」

『…正直、怖いです…。また、前みたいになっているかもと考えると、教室には行きづらくて…』

「ま、そうだわな」

『…すみません』

「あ?いや、お前が謝るこっちゃねぇよ。それより…ちょっと先生に案があんだけど」


ニヤリと悪そうに笑う坂田先生。
案って?と首をかしげてみせると、勢いよく立ち上がった先生に腕を捕まれた。


「おし、行くか」

『え?』


まさかこのまま教室に?
されるがままに引っ張られると、連れていかれてのは意外な場所だった。









「…今日も、来てねぇな…」


空席になっている隣の席を見ながら呟いてみたけれど、総悟から返事は返ってこない。
机に突っ伏してはいるが、寝てはいないだろう。
寝た降り、というよりこの話をしたくないのかもしれない。
あれから何度か苗字の家を訪れたけれど、まだ会えていないのだ。
せめて、顔くらいみせて欲しい。

SHRの時間になっても来ないルーズな担任を待ちながらそんなことを考えていると、「えー、SHR中に失礼しまーす」と呑気な声がスピーカーから聞こえてきた。
いや、これうちのアホ担任じゃねぇか。何やってんだよ。


〈えー、これより緊急放送を始めます。ほら〉

《ほ、ほらって…そんなこと言われても》

〈んだよ?言いたいこと、山ほどあんだろうが?〉

《で、でも…》


スピーカーから聞こえるのは坂田の声だけじゃない。
聞き慣れたその声にスピーカーを見つめていると、突っ伏していた総悟も顔をあげたのに気づいた。


《ど、どうも。えっと…2年A組の苗字名前です》


響いたその声に教室がざわつく。
なんで、どうしてアイツが?
思わず目を見開いていると、苗字はさらに言葉を綴った。


《…えっと、先ず…すみませんでした。わたしのせいでお騒がせしてしまいました》

〈バカ、んなこと謝んなくていいんだよ。それより…もっと言うことあんだろ〉


坂田の言葉にシンッと静まる中、苗字の凛とした声が流れてくる。


《…新聞の記事に書いてあったことは、本当です。私は、前の学校で“問題”を起こしてこの学校に転校してきました。けど…けど、私は…ネットにあがっているようなことをしてはいませんっ》


スピーカーから聞こえる声は、なんだか震えている。
苗字は、苦しんでいるんだ。
グッと奥歯を噛みしめたとき、総悟が立ち上がったのに気づいた。


「…総悟?」

「…」


無言でスピーカーを見つめる総悟は、まるでそこに苗字がいるかのように、目を細めている。


《記事を信じるか、ネットの情報を信じるか…それは皆さんが決めることで、私がどうこう言えることじゃありません。でも…私のことを信じてくれる人が、もし、もしいるなら…その人たちのために私は言わなきゃならない。…私は……人殺しなんかじゃありません…!》


最後は、苗字にしては珍しい、少し叫ぶような声だった。
静かな教室で先ず動いたのはもちろん総悟。
ガラッと勢いよくドアを開けると、そのまま教室を出ていった。
どこ行くんだよ、なんて愚問だよな。
苦笑いしてからそのあとを追いかけると、他の教室からも何人か出てくるのが分かった。

〈何をしている!!〉〈げっ、教頭…〉〈坂田!お前自分のクラスのSHRはどうした!!〉〈へいへいすみませんすみません。けど教頭、タイミング良すぎじゃね?苗字の放送が終わるの待って〈黙れ〉〉

なんて会話のあと、プツッと切れた放送。
何だかんだで教頭は甘いな。
なんて笑っていると、お目当ての放送室が見えてきた。


「っ!苗字!!」

『!』


中から出てきた人物は、実に2週間ぶりである。
少しの不安に瞳を揺らしながら俺たちを見る苗字に、春野と山中が突っ込んでいった。


「この…バカっ!!!」

『っえ!?』

「なんで会いに行っても出てこないのよ!!」


そうか、春野たちも会いに行ってたのか。
泣いて抱き締めてくる春野と山中に、最初は戸惑っていた苗字も山中の言葉に、二人の背中に手を伸ばした。


『…ごめんね…』

「いらないわよ…そんな言葉…」

『……ありがとう、信じてくれて…』


二人の背中を撫でる苗字の目にもだんだんと涙が浮かんできた。
そんな3人の姿に頬を緩めていると、顔をあげた苗字と目があった。


「おかえり、でいいのか?」

『…うん。ただいまっ』


笑顔を見せてくれる苗字。
やっぱり笑ってた方がいい。
ゆっくりと柔らかそうな黒髪に手を伸ばしたとき。


「うお!?!?」

『え!?だ、大丈夫!?黒崎くん!』


…ですよね。
邪魔が来ないはずないですよね。
蹴られた背中を擦りながら蹴ってきた相手を見ると、案の定すました顔をした総悟だった。


「総悟、お前なぁ…」

「…名前」

『え、あ、はいっ』


俺のことは無視かよ。
じっと見つめてくる総悟に苗字が首を傾げると、総悟の腕が苗字を包んだ。


『え!?あ、あの…』

「……もう…いなくなるじゃねぇぞ…」

『……うん。ありがとう、総悟くん』


総悟も、こんな顔すんだな。
目を細めながら二人を見ていると、放送室から教頭と坂田が出てきた。


「お前たちこんなところで何をしている!!もう授業が始まるぞ!!」

「ほれ、散った散ったー」


教頭と坂田の言葉に仕方なく教室へ戻ろうとしたとき、「あの、」と苗字が声をあげた。


「?どうした?」

『…えっと…あ、ありがとうございました』


この場にいる全員に向かって頭を下げる苗字にシカマルが「律儀かよ」と少しだけ呆れたように、でも嬉しそうに笑った。
それにつられるように全員が小さく笑うと苗字も笑ってみせる。

こういうのが一番、だよな。

なんてことなのないこういう日常が、完璧に戻ってくるまでまだ時間はかかるかもしれない。
それでも、今この瞬間、苗字が笑っていることが重要なのだ。

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