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35 私を愛した先輩


※オリキャラ出てきます。
苦手な方はご注意ください。



前の高校で、私には“憧れ”の先輩がいた。
優しくて、人当たりもいい、みんなの憧れの先輩。
そんな彼が、私に告白してきてくれたのは、1年の夏だった。
まさか憧れの人にそんなこと言われるなんて思いもしなかった。
ただただ嬉しくて、もちろんOKの返事を返したとき、先輩はとても柔らかく微笑んでくれた。今では、“偽物”とも思えるほど、綺麗な笑顔で。


『え?それ、どういう…?』

「…アイツはやめとけ」


花宮がそんなことを言い出したのは、そのすぐあとだった。
正直、どうしてそんなことを言うのか分からなかった私は、『もう、返事しちゃったし…先輩いい人だよ?』なんて呑気に返した。


けど、正しいのは花宮だった。


『え?』

「だからさ、今日の昼休みに一緒にいたやつ誰?」

『に、日直で…先生に頼まれたものを一緒に運んでただけですよ…?』


先輩は、凄く嫉妬深い人だった。
最初はただのヤキモチ程度だと思っていた。
けど、先輩のソレは、度が越えていた。

携帯の履歴、その日の行動。
まるで監視をされるような日々に、ついに我慢できなくなっていたとき、


「だから言っただろうが、ばあーか」

『…はな、みや…』


手をさしのべてくれたのは花宮だった。
ううん、花宮だけじゃない。
黒尾先輩も、研磨くんも、他にもたくさんの人が私を助けてくれた。
そのおかげで、私は先輩と別れることができた。
そう、思っていた。


「名前、」

『っ!あ…せ、先輩…』


先輩と別れてからは、一人にならないように気をつけていた。
けど、その日はたまたま昼休みに図書室に用事があった。多分大丈夫、なんて安易に考えた自分を呪った。

そこに現れた先輩の手には鋭利なナイフが握られていたから。


『な、なんで、そんなもの…』

「…なぁ、名前、俺はこんなにお前が好きなのに、どうして分かってくれない?どうして離れようとするんだ?どうして他の奴等を選ぶ?
許さない。俺以外のやつと、なんて絶対に許さないっ!!」


まるで気が狂ったように叫んだ先輩。
まるで、ではなく、本当に狂っていたのかも。
向けられた切っ先に、逃げようとすると、先輩の腕が大きく振り上げられた。


『いやっ!!やめて!だ、誰か!誰か助けてええ!!』


捕まれた腕をなんとか振り払おうとしていると、先輩のナイフが微かに頬をかする。


『や…やめて!!』

「っ!」


渾身の力でナイフの持たれている腕を掴んで揉み合いのようになっていると、運か不運か、私たちは二人ともその場に倒れこんだ。
その拍子に、嫌な感触がした。


『っえ……』

「う、あっ…!」

『う、そ…?』


自分の上に倒れ混む先輩から流れる赤。
うそ、嘘だ。
ゆっくりと先輩の体を退かして、自分の手を見るとべっとりとついた赤いソレ。


『あ、あ、あ、…わ、私…』

「名前っ!!」


そこへ現れたのが花宮だった。
私たちを見た花宮は珍しく目を丸くして、一瞬動きをとめた。


『ど、どうしよう…!どうしよう花宮っ!わ、私、私、こ、こんなつもりなくて、だけど、先輩がナイフで…!!』

「分かってる!分かってるから、落ち着け!…大丈夫だ、お前は悪くない!」


震える体を抱き締めてくれる花宮の手は凄く力強かった。
そのあと駆けつけた司書の先生によって、救急車や警察が呼ばれ、私は取り調べをうけた。
ナイフの指紋などから、正当防衛ということで、私は無実になったけれど、“今まで通り”にはならなかった。


「人殺し」
「あんな優しい先輩を…最低」


学校で知られる先輩は“優しい先輩”。
そんな先輩と、ただの一般生である私のどちらを皆が信じるか、なんて明白だった。
浴びせられる尖った言葉に耐えきれなくなった私は、今の学校へと転校したのである。

けど、やっぱりムリだった。
“普通”を手にいれようなんて、もう無理なのかもしれない。


電気もつけていない自室に閉じ籠っていると、時折母が声をかけてくれる。
ごめんね、お母さん。また、心配かけてごめんね。
ただただ謝る私を母は決して責めたりしなかった。

携帯の電源は切っている。
誰からだろうと、今は何も聞きたくない、知りたくない。

あの日から1週間。
私はもう、皆のもとへ戻れないかもしれない。

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