33 長身眼鏡と天才甘党
学校帰りにデパートで買い物をしたら、たまたま福引きが引けた。
なんとなく引いてみたら、たまたまスイーツバイキングの食べ放題チケットがたった。
翌日、学校でサクラちゃんやルキアちゃんたちに一緒に行かないか、と尋ねてみると皆用事があったり、ダイエット中だったりして都合がつかなかった。
どうしよう、と困り果てていると、たまたま食堂で美味しいケーキ屋さんの話をしている二人組の男の子を見つけた。
どうせ行く人もいないのだし。
そう思って、その二人にチケットを渡すことに。
『…あの』
「?なんだよぃ」
『これ、良かったらお二人で使って下さい』
「は?」
ペア用のチケットを差し出すと、ガムを膨らませていた赤い髪の人が怪訝そうにそれを見た。
「っ!これっ!!」
「…す、スイーツバイキング…」
『私は多分、行けないので』
「どうぞ」と赤い髪の人の手にそれを乗せると、目を輝かせながら「マジでいいのか!?」と聞いてきた。
もちろん、と頷くとガッツポーズをしたその人は「よっしゃ!!月島、お前いつ行けるよぃ??」ともう一人の長身の眼鏡をかけた人にチケットを見せた。
「…あの、本当にいいんですか?」
『はい、大丈夫ですよ』
「…ありがとうございます…」
本の少し頭を下げてきた月島さん。
「どういたしまして」と笑って返すと、月島さんが顔をあげて不思議そうに眉を寄せた。
「僕、一年なんで、敬語はいりませんよ。苗字先輩」
『え…あ、名前…』
「前にバレー部に来ましたよね?黒崎先輩と」
月島くんはバレー部なのか。
確かに黒崎くんと一緒に行ったけれど、月島くんのことは覚えていられなかった。
なんだか申し訳なくなって「ごめんね」と謝ると、「いえ、別に」と月島くんは眼鏡を押し上げた。
良かった。怒らせたわけではないみたい。
ホッとしながら笑みを溢すと、「あ、」と赤い髪の人が何かを思い出したように声をあげた。
「苗字って…仁王の彼女か!」
『彼女じゃありませんよ』
まだそんな嘘があるのか。
呆れながら否定すると、赤い髪の人は「ふーん、ちげぇんだ」と再びガムを膨らませた。
「俺、丸井ブン太。3年な。シクヨロ!」
「…月島蛍です」
『あ、えっと…苗字名前です、よろしくお願いします』
綺麗なウインクと共に自己紹介をしてくれる丸井先輩と、そんな丸井先輩を少し冷めたように見つめる月島くん。
この二人、なんで仲良いんだろ。スイーツの力って凄いな。
なんて、考えて少し笑っていると、「苗字?」と背後から、先ほどの話題の人の声がした。
「よっ、仁王!」
「…ブンちゃん、1年巻き込んで苗字に手ぇ出しとるんか?」
「ちげーよ!お前じゃねぇんだから、んなことするかよぃ!!」
仁王先輩の言葉に反論をする丸井先輩。
この学校の人たちって皆仲良しだな。
「仲良しだね」と月島くんに笑って見せると、丸井先輩もテニス部なのだと返された。
なるほど、部活が同じなのか。
『…あれ?じゃあ月島くんと丸井先輩は別の部活だよね?』
「そうですけど」
『…仲、良いね。一緒にスイーツバイキングに行くなんて』
「…いえ、別に仲良くはありません」
「は!?ちょ、仲良いだろぃ!!この前も一緒にケーキ食べに行っただろうが!!」
騒ぐ丸井先輩とれをめ面倒そうに見る月島くん。
月島くんは否定しているとけれど、実際は仲良しなんだろうな。
「ブンちゃんの片想いじゃの」なんて言う仁王先輩の言葉につい声をだして笑っていると、月島くんが不機嫌そうに眉を寄せた。
「…じゃあ、昼休みなくなるんで、もぅ行きます」
「あっ!おい、月島!バイキングいつ行くんだよぃ!」
「…先輩の都合の良い日を連絡して下さい」
月島くんて、素直じゃないな。なんだか可愛いけど。
ふふっと笑ってから「またね、月島くん」と小さく手をふると、軽くお辞儀を返した彼はそのまま歩いて行ってしまった。
「…アイツ、俺らへの挨拶は?」「…なかったの」「澤村に言い付けてやる…」「やめんしゃい、この前赤也がバレー部に迷惑かけたんだからお相子じゃろ」「ちぇ」
唇を尖らせる丸井先輩は、失礼だけど可愛らしい。
内心笑みを溢しながら、「そろそろ私も教室に戻りますね」と言うと、丸井先輩が「あ、」と言ってポケットを漁り始めた。
「お、あったあった。ほらよぃ」
『?飴、ですね』
「チケット貰ったしな。今はこれで勘弁」
手のひらに乗せられたのは、いくつかの飴。
「ありがとうございます」と素直に受け取ると、「月島もお前と同じくらい素直になって欲しいもんなだぜ」と丸井先輩は笑った。
そのあと、教室に戻ってから、丸井先輩に貰った飴を黒崎くんと総悟君にもお裾分け。
三人で食べた飴はなんだかとても美味しかった。
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