32 緑間くんと高尾くん
剣道部の試合があった翌日。
総悟くんはとにかく不機嫌そうだった。
「いいじゃねぇか共闘すりゃあ。そっちのが強いんだしよ」
「…なんであんなたかピーな奴らと…」
『けど、いつも敵だった人が味方になるなんて、なんだか楽しそうだけどな』
「ね」と黒崎くんに言うと、肯定をしめすように頷かれた。
総悟くん的には納得できないだろうけど、私としては、朽木先輩や総悟くん、それに阿散井くんが協力するところを見てみたい。
「応援してるね」と総悟くんに笑ってみせると、一瞬驚いた顔をした総悟くんは小さく息を吐いた。
「しょうがねぇなぁ…」
小さな呟き。
けど、それを聞き逃さなかった私と黒崎くんは、思わず目を合わせて笑ってしまった。
『試合?』
「はい!今週末にするんすよっ!それに、苗字先輩も来ていただけませんか?」
昼休み。黒崎くんと総悟くんと私の三人でお昼を食べていると、緑間くんと高尾くんがやってきた。
たまに廊下ですれ違ったりしたときは、二人とも挨拶をしてくれるけれど、わざわざ教室まで来るなんて珍しい。
どうしたの?と首を傾げると、高尾くんから笑顔で試合のお誘いがきた。
『練習試合ってこと?』
「や、うちの部内での試合っすよ?あーけど、そんじょそこらの練習試合よりも白熱します!」
「なっ!真ちゃん!」と緑間くんに話をふる高尾くん。
彼にならって、私も緑間くんをみると、一度眼鏡を押し上げた緑間くんは大きくうなずいた。
「見に来て、損はないと思います」
『…そこまで言ってくれるなら、行かせてもらおうかなぁ』
「マジですか!?」
『うん』
「よっしゃあ!」
何故かガッツポーズをするほどに喜ぶ高尾くん。
どうしてそんなに来てほしいの?と尋ねると、「苗字先輩は真ちゃんのラッキーパーソンですから!」と返ってきた。
そういえば、そうだったような。
苦笑いしながら納得、と頷いてみせると、「それに」と高尾くんが悪戯っぽく口角をあげた。
「先輩みたいな美人の応援があったら、俺も頑張れますし!」
相変わらず、お世辞がうまいな。
あはは、と笑って誤魔化していると、ガタッと隣の椅子が動いた。
ふとそちらを見ると、どうやら総悟くんが立ち上がったようだ。
「どうかしたの?」と尋ねると、少し眉を寄せた総悟くんが緑間くんたちに向き合った。
「あ、宮地センパイ」
「「!!??」」
宮地先輩?
廊下の方を見て、総悟くんが言った一言に、目の前の二人がピシリと固まった。
けれど、総悟くんにつられて廊下を見てみると、そこには宮地先輩はいない。
『…いない、よ?』
「ま、マジすか!?うわ、超焦ったー!!ぜってぇ一発降ってくると思ったわ…」
「全くなのだよ」
ホッと肩を落とした二人。
宮地先輩、どんだけ怖いんだろ?
「沖田先輩心臓止まるとこだったんすけどー!」「そりゃあ良かったなぁ」「ひっでー!」
ケラケラと笑う高尾くんを見る限り、怒ってはいないらしい。
でも、どうしてそんな嘘をついたのだろうか?
隣にいた黒崎くんに、そんな質問をすると、黒崎くんからは苦笑いしか帰って来なかった。
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