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22 麿眉悪童様


球技大会の帰り道、校門を出るところまでは黒崎くんも居たのだけれど、彼はまた阿散井くんに捕まってしまっていた。


そんな訳で今日も一人で帰ることになった。
ふと空を見上げればもう茜色になっている。
普段ならもっと早くに帰るのだけれど、今日はサッカー優勝で盛り上がってしまったため仕方ない。

ちょっと急ごうとしていると、「おい」ひどく懐かしい声が聞こえた。
まさか。
ゆっくりと声がした方に振り向けば、立っていたのはよく知った人物。


『は、なみや…』

「…」









『…久しぶり、だね』

「…たかだか数ヶ月ぶりだろうが」


呆れたように隣でため息をはく花宮。
そんな彼が、私にはやっぱり懐かしく感じた。

前の学校で、私の良き理解者だった花宮と訪れたのは近くの公園で、そこのベンチに座って話をするとことになったのだ。


「バレー部の、」

『うん?』

「デカイ先輩がキレてたぞ。連絡寄越さねぇって」

『…黒尾先輩かぁ』


懐かしいな。
そういえば、あの先輩にも随分とお世話になった。
「謝っといて、」と言うと「自分で言え」と花宮は眉を寄せた。変わらないな。


『…あのさ、花宮』

「あ?」

『ありがとね』

「…」

『花宮が居なかったら、私はきっと今の学校に行くこともできてない。だから…ありがとう』


ソッと目を細めて笑うと、花宮の視線がそらされた。


「なに急にんなこと言ってんだよ、ばあか」

『言ってなかったな、って思ってさ』


けっ、とめんどくさそうに眉間に皺を寄せる花宮。
けどその耳がほんの少しだけ赤くなっていた。
ほら、やっぱり変わらない。
器用なくせにこういう所はホント不器用だ。
小さく笑っていると、ジロリと睨まれたので慌てて話題を変えた。

「原くんたちは元気?」「…自分で確かめろ」「それくらい教えてよ」「元気元気」「…棒読みすぎ」

こんな下さらないやり取りさえも懐かしくて、ふふっと笑ってしまっていると、花宮が急に真剣な目でこちらを見てきた。


「うまくやってんのか?」

『…うん。皆いい人ばっかりだよ』

「…はっ、お前にはそういうお人好しの馬鹿たちと一緒にいるのがお似合いだな」

『じゃあ花宮もお人好しの馬鹿になってくれる?』

「…誰がなるか、ばあかっ」


悪態をついてくるものの、その表情が少しだけ柔らかい。
よく、「花宮は苗字ちゃんに甘いよなぁ」と原くん達に言われていたけれど、今ほどそれを実感するときはない。
なんだかんだで花宮は優しい。


「…じゃあな」

『え、もう帰るの?』

「誰かさんと違って暇じゃねぇんだよ」

『…その誰かさんは暇なんだから、もう少し構ってくれたっていいのに…』


むすっとした顔で花宮を見ると、心底呆れたようにため息をはかれた。
それに「ちょっと、」と文句をつけると、羨ましくなるほど白い花宮て手が伸びてきた。
あ、これおでこを弾かれたり、頬をつねられたりするのではないか。
けれど、私の予想に反して、花宮の手は頭の上に乗せられた。


「…気を付けろよ」

『っ、は、花宮、なんか今日らしくないね?大丈夫?』

「言ってろ」


クシャクシャと頭を撫でると満足したのか手を下ろした花宮。
こんなコイツは初めて見た。
ちょっと驚きながら花宮を見上げると、フッと笑みを返された。
ちょっと待って。この人誰?
目を丸くしてそんな花宮を見ていると、私の態度が気に入らなかったのか、今度こそ頬をつねられた。


『いっ!!』

「…じゃあな」


二度目の別れの挨拶をすると、パッと手を離して公園の出口へ向かう花宮。
その背中に「ありがとう!」と声をかけたけれど、結局振り返ることなくそのまま歩いて行ってしまった。

花宮の背中が見えなくなるまで見送ってから、自分も帰ろうと公園からでると、もうすぐ日が落ちてしまいそうな空の色に気づいた。
それが、なんだか少し寂しく感じられたのだった。

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