21 梅干し嫌いな死の外科医
黒崎くんと沖田くんの活躍により、うちのクラスのサッカーは決勝まで駒を進めた。
今からその決勝が始まるので、それを見ようと待っていると「名前ー!!」と声をかけられた。
『あ、えーっと…る、ルフィくん??』
「おう!!」
ニッとこちらが気持ちがよくなるほど眩しい笑顔を向けてくれたルフィくん。
うーん、なんだか年下みたいだな。
ふふっと笑ってしまっていると、ルフィくんの隣に知らない人がいるのに気づいた。
『えっと…そちらは…』
「ん?ああ!トラ男だ!!」
『と、トラ男さん…?』
「…おい、ふざけた紹介をするな」
嫌そうに顔を歪めたトラ男?さんはルフィくんをジロリと睨むと、チラリとこちらを見た。
「……トラファルガー・ローだ」
『あ…えっと…苗字名前です、』
「よろしくお願いします」と軽くお辞儀をすると、トラファルガーさんは「同学年だろう、敬語はいらない」と言ってくれたので、遠慮なく敬語はやめさせてもらうことにした。
「つか、苗字、ルフィと知り合いだったんだな」
『あ、うん。前にちょっとね』
「へぇ……。でも、サッカーはうちのクラスの応援しろよ」
『え?』
「次、コイツらのクラスとだろうが」
黒崎君の言葉にルフィくんを見ると「にししっ負けねぇぞ!」と笑顔を向けられた。
それに曖昧に笑って返したところでピピーっと、どうやら選手集合の笛の音が鳴った。
それに気づいた黒崎君やルフィくん、それにトラファルガーくんがグラウンドの中心のほうへ移動するなか、沖田君だけがジッとしたまま動かない。
『沖田くん?行かないの?』
「…今から行きやす」
視線が交わったあと、黒崎くんたちの後を追いかけるように歩いていった沖田くん。
なんだかいつもと違うような気がする。大丈夫だろうか。
けれど、そんな心配は杞憂だったらしい。
『あ、また決めた』
試合での沖田くんは、それはそれは素晴らしい活躍っぷりだ。
具合が悪いだなんてありえないな。
このまま勝ちが決まりそうなだけれど、ルフィくんもトラファルガーくんも負けず劣らず凄いボール捌きである。
勝負はまだ分からない。
真剣に試合を見ていると、「苗字、」何処からか仁王先輩の声がした。
『あれ?先輩、どうしたんですか?』
「お前さんこそ、随分真剣に見とるのう。自分のクラスか?」
『はい。決勝なんですよ』
ほぅ、と試合に目を向けた先輩。
それに続いて、自分もまた試合を見れば、今度はルフィくんがゴールを決めていた。
「麦わらにトラファルガーか」
『知ってるんですか?』
「一応は…」
仁王先輩って思ったよりも友達多いのかも。
「お前さん、今失礼な事を考えたじゃろ?」「…あはは」「笑って誤魔化すんじゃなか」「そ、それより、仁王先輩の後輩は何に出てるんですか?」
ジト目で見てくる先輩は、私が質問するとため息を1つ吐いてから面倒そうに口を開いた。
「赤也のヤツはバスケで負けたとか騒いでたのう」
『…赤也くん、ですか?』
「2年じゃき、いつか会うじゃろ」
「けど、怒らせるんじゃなかよ」と念を押して言ってきた仁王先輩。
誰だって好き好んで誰かを怒らせたりしないだろう。
先輩の心配に不思議に思いながらも返事を返したところでピピー!と試合終了の笛が鳴った。
ハッとして点数を見れば5-4でうちのクラスが勝利をおさめたようだった。
『勝ちました!』
「おお、良かった良かった」
『…棒読みですね』
「プリっ」とよく相変わらずよく分からない返事をする先輩をジト目で見ていると、「名前、」と沖田くんに名前を呼ばれた。
どうやら、試合が終わるとそのままこちらに来たようだ。隣には黒崎くんもいる。
『お疲れ様』
「おうっ」
にこやかに手をあげてくれた黒崎くん。
でも、沖田くんは反応がない。
あれ?っと思っていると彼と仁王先輩の視線が交わっているのに気づいた。
…気のせいか、火花が見えるような…。
この二人仲が悪かったのだろうか。
チラリと黒崎くんを見てみると苦笑いを溢していた。
「…それじゃあ、行くからのう」
『あ、はい。また…』
ふいに視線を沖田くんからそらした仁王先輩はそのまま背を向けて歩いて行ってしまった。
なんだったのだろうか、とその背中を見ていると、グイッと沖田くんに肩を捕まれた。
そのまま彼の方を向かされると、どうやら機嫌が悪いらしく、眉間に盛大に皺が寄っていた。
『…あ、あの…沖田くん?』
「…」
どうしたことかと眉を下げたとき、「約束、」と沖田くんが小さな声で呟いた。
『約束…?…あ、もしかして優勝したらってやつ?』
「…」
『私にできることならするけど…何がいい?』
首を傾げて沖田くんを見ると、彼の大きな瞳がようやくしっかりと私をとらえた。
「…名前、」
『え?』
「名前で呼べ」
名前で呼べって…そんなことでいいのだろうか?
ちょっと驚いて彼を見ていると、黒崎くんも私と同じような顔をして沖田くんを見ていた。
『えっと…そ、総悟くん?』
「………これからは名字禁止だかんな」
パッと肩から手を離すと歩いて行ってしまった沖田くん、もとい総悟くん。
もっと無理難題を言われるかと思ってたので少し拍子抜けだ。
『おき…総悟くん、どうしたんだろうね』
「…あー……そ、そうだな」
黒崎くんに総悟くんの事を聞いてみようと思ったけれど、なんだか気まずそうに返されてしまった。
やっぱり男の子ってよく分からない気がする。
とりあえず、球技大会はこうして幕を閉じたのだった。
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