14 先輩方にご注意を?2
突然現れた坂田先生に顔をしかめる先輩たち。
そんな皆さんに苦笑いをしていると、坂田先生が先輩たちから私に視線を向けてきた。
「で?なんで俺の可愛い苗字がこーんな奴らと一緒にいるわけよ?」
「先生、可愛い“生徒”ですよね?」
「つけ忘れてはいけませんよ??」とさっきとはまた違う笑顔を浮かべた幸村先輩。
どことなく感じる威圧感にチラリと先生を見るとそんなこと気にしていないように耳に指を突っ込んでいた。
「あー、はいはい可愛い“生徒”の名前ちゃんだよ」
「生徒を名前でちゃん付けなんてええんですか?」
「こまけーことは気にすんな、えーっと今坂くん?」
「今吉や」
「あー、そうだっけー」と気だるげな様子の先生に呆れたようにため息をつく宮地先輩。
そういえば、苦手だって言っていたな、なんて考えていると、「で?」と少しだけ真面目なトーンの先生の声が耳に入ってきた。
『え?』
「だから、なんでお前がこいつらと一緒に飯食ってんだって聞いてんの
あれか、脅されてんのか?なんか弱味を握られてまるでパシりのごとくボロ雑巾のように使われてんじゃねえだろうな?」
『い、いえ、そんなことありませんよ?皆さんとてもいい人です』
「おいおい名前ちゃんよー、無理しなくていいんだぜ?なんかあったらこの坂田先生に何でも言っていいんだぜ?
なんなら、学校でのことだけでなくもっと個人的な悩みだって聞くぜ?
先生が手取り足取り「セクハラも大概にして下さい坂田先生」…んだよ、冗談だろ?」
「先生が言うと冗談に聞こえませんよ」と幸村先輩と同じような笑顔を浮かべた菅原先輩の言葉に先生は「へいへい」と面倒そうに返した。
「で、なんか俺たちに用っすか?」
「んで、おれがお前らに用があんだよ
俺が用があんのは苗字だっつーの」
『あ、私ですか?』
「なんですか?」と首をかしげると、先生は少し言いにくそうな顔してから先輩たちを見た。
その仕草でなんとなく内容が分かってしまったので、立ち上がると、仁王先輩の「苗字?」と不審そうな声がした。
『…すみません、今日のお昼はここまでってことで』
「…ここじゃダメなんか?」
『…ごめんなさい』
ムッとする仁王先輩に苦笑いしていると、「仁王のことはいいから行っておいで」と幸村先輩が言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらった。
『あの、皆さん今日はありがとうございました』
ペコリと礼をしてから顔をあげると、何か聞きたそうな顔をする先輩たち。
でも、それには気づかないふりをさせてもらった。
「行くぞー」と言って歩き出した先生の後ろに慌てて着い行こうとしたとき、「苗字、」と仁王先輩に呼び止められた。
「…次は弁当作ってもらうからの」
『…ふふ、気が向いたら作ってきますね』
いまだにムッとしているけれど、どこか表情の和らいだ先輩にそうかえして、学食の入り口で待っている先生の所へ向かう。
「…わりぃな、昼飯時に」
『先生のせいじゃないじゃないですか。
…それでその…なんでしょう…?』
「あー……お前が前にいた学校の先公たちにお前が今この学校に通ってるってバレちまったらしいんだよ」
『はい』
「もしなんか、あったらすぐに知らせろよ」
いつもと違って頼りがいのある様子の先生にふふっと笑って「ありがとうございます」と返すと、先生の大きな手が頭の上にのった。
「…ま、大丈夫だろ、ここの奴等は案外悪いやつらじゃねえしよ」
『…はい』
柔らかな笑みを浮かべた先生の言葉に小さく頷く。
大丈夫、きっと大丈夫、そう自分に言い聞かせるのはいったい何度目だろうか。
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