15 海賊じゃない麦藁一味
坂田先生から以前の学校の先生にここの事がバレたと聞いてから数日。
別段変わったことはなく、今日も平和に1日が終わった。
「じゃあね」と部活のある沖田くんと朽木さんと阿散井くんに捕まっている黒崎くんに挨拶をして帰ろうと靴をはきかえて門を潜ると、うちの学校の生徒ではない人達が数人校門の所に立っていた。
中にはオレンジの髪をした美人な女の人もいて、少しその人達を見ていると、欠伸をした緑の髪の人と目があって、軽く睨まれた。
ヤバい、と慌てて目をそらして帰ろうとしたのだけれど、誰かに腕を捕まれた。
「おお!神よ!!俺はなんて罪深い男なのでしょう!」
『え!?』
腕を掴んでいたのは、金髪の人で何故か目がハートになっている気がする。
「ナミさんやロビンちゃんという美しい女神の他にこんなにも可愛らしい天使を俺のもとへ使わせるなんて…!」と、なんとも意味のよく分からないことを言うその人に困っていると、
「やめなさい!!!」
「っ!?な、ナミさん…」
オレンジの髪の人の拳骨が金色の髪の人の頭を見事に捕らえた。
その衝撃で腕は解放されていて、オレンジの髪の美人さんに「あ、ありがとうございます」と頭を下げると、つり上げていた眉をおろして笑顔が向けられた。
「いいのよ、悪いのはこっちのバカなんだし」
「ナミさん、ヤキモチなんて妬かなくていいんだよぉ〜!俺の心はいつだって君の、」
「サンジ!もう黙れ!!殺されるぞ!!」
オレンジの美人さんに目をハートにしている金髪さんが何かを言おうとすると、鼻の長い人がその口をふさいだ。
「ねぇ、あなたここの生徒よね?」
『あ、はい』
「何年生?」
『2年です』
「おお!じゃあルフィと一緒じゃねえか!」
“ルフィ”と聞きなれない名前を言われて首を傾げると、「知らない?」と美人さんに言われて、頷き返した。
「アイツおっせーなぁ…もう置いて行きましょうナミさん」
「そうねぇ…」
『…あの、その“ルフィ”さんって人を待ってるんですか?』
「え?そうだけど…」
『あの、私呼んできましょうか?』
「え、」と意外そうに目を見開いた美人さん。
美人はどんな表情も似合うなぁ、と思っていると「ホントにいいのか?」と長鼻さんが聞いてきた。
『はい。大丈夫ですよ』
「じゃあ…お願いしようかしら」
『はいっ』
眉を下げて少し申し訳なさそうな顔をする美人さんに笑って返していると、「やっぱり君は天使だ…!」と金髪さんが言っていたのには苦笑いを返してしまった。
『2年D組っと…』
美人さん達と別れて、さっき来た道を戻って行くと、教室や廊下にはもぅほとんど生徒はいなかった。
早歩きでA組、B組と通りすぎて行って、まだ行ったことのないD組に足を運ぶ。
『る、ルフィくーん…?』
ひょっこりと中を除くように教室を見渡すと、黒髪の男の子が1人机に突っ伏して寝ていた。
ゆっくりと近づいて行くと、気持ち良さそうな寝息が聞こえる。
『る、ルフィくん、ルフィくん!お友達が呼んでるよ!』
「…んぁ??…………誰だぁ〜?お前?」
眠そうな目を向けてくるルフィくんは同い年にしてはなんだか可愛らしく見える。
苦笑いを返して「校門の所にお友達が待ってるよ」と返すと、「…友達…?」と少し間があってからルフィくんの目がカッと見開いた。
「おおっ!!アイツらか!!」
『うん、そう、あなたを待って…!?』
さっきとはうってかわってパッチリと目を見開いたルフィくん。
良かった、と胸を撫で下ろしていると今度は突然腕を捕まれた。
「えっ」と言って彼を見ると、純粋なニカッとした笑顔を向けられて、「行くぞ!」と走り出された。
『ちょっ!……ええ!?る、ルフィくん!は、はやっ……!』
凄い勢いで走っていくとルフィくんは真っ直ぐ前だけを見てドンドン進んでいく。
もちろん私の腕は離さずに。
こんなにも全力疾走するのはいったいどのくらい振りだろうか。
現役男子高校生のスピードに引かれながら、そのまま走ったいると階段に差し掛かる所でルフィくんは足を止めた。
良かった、と彼に声をかけようとすると、彼の腕が腰に回された。
『……え?』
「よし!!行くぞ!!」
『い、いくって……っ、きゃああああああ!?!?』
ぐいっと見た目に寄らない力で引き寄せられたかと思うと、そのままあろうことかルフィくんの肩に担がれた。
まさか、と思っていると、ルフィくんはそのまま階段を駆け降りた。
いや、これは駆け降りたわけではなく、これは階段を三段飛ばしで飛び降りている。
『あ、あの!る、ルフィくん!?』
あっという間に靴箱に着いて、私を降ろすと、ルフィくんは「にししっ」と無邪気な笑顔を向けてきた。
そんな笑顔を見せられては怒るに怒れなくなる。
なんだか不思議な人だなぁ、と彼を見ていると、そんな私を不思議に思ったのか、ルフィくんが「靴かえねぇのか?」と聞いて来たので、慌てて履き替えた。
「よしっ!行くぞ!!」
『ええ!?また!?』
私が履き替えたのを見ると、ルフィくんに再び腕を掴まれた。
ちょっと待ってという間もなく、ルフィくんは校門に向かって走り出した。
「おう!わりぃな!寝てた!」
「いや、それはいいが…お前大丈夫か!?」
息一つ乱さずにお友達さんに向けて笑顔で謝るルフィくんとは対象的に肩で大きく息をしている私に長鼻さんが心配そうに駆け寄って来てくれた。
「てめぇ俺の天使に何させてんだ!ごらぁ!!」
「てんし?…ところでお前誰だ?」
「あんたねぇ…」
首を傾げるルフィくんにため息をつく美人さん。
やっと息も整ってきたので、顔をあげてルフィくんを見ると、キョトンとした目と目があった。
『えっと、この間転校してきた苗字名前です』
「おれはー、ルフィ!」
「よろしくな!」と満面の笑みを向けられたので、つられて笑っていると、「名前ちゃんって言うんだぁ〜!俺はサンジって言うんだよ!よろしくね〜!!」と金髪さん、もといサンジさんがクネクネと体を曲げながら言ってきた。
「あたしはナミよ」
「おれはウソップってんだ」
サンジさんに続いて、ナミさんとウソップさんも自己紹介をしてくれた。
あと名前を知らないのは……
「……ロロノア・ゾロだ」
『よろしくお願いします』
緑色の髪をしたゾロさんもなんとか名前を教えてくれた。
なんだか一気に知り合いが増えたな、と思っているとナミさんにじっと見られているような気がした。
『??なんですか??』
「んー…なんか見たことあるような気が…?」
「ナミさん、名前ちゃんと知り合いなのかい?」
ナミさんの言葉にドキリとしながらも、なんとか平静を装って笑顔を見せる。
『…気のせいじゃないですか?わたしは初対面だと思うんですけど…』
「…そうね、気のせいね」
「ごめんなさいね」と謝ってきたナミさんに首をふった所で、ルフィくんが本日三度となる腕を掴んできた。
「よーし!行くぞ!!」
『え?ちょ、ちょっとルフィくん??
ど、どこに行くの??』
「ちょっとルフィ!なに、名前まで連れて行こうとしてんのよ!困ってるじゃない!」
「離しなさい、」とルフィくんの腕にチョップを食らわせたナミさん。
それでも腕を離さないルフィくんはじっと私を見つめてきた。
「いいじゃねえか!!行こうぜ!!」
『いや、だから、どこに…』
「フットボールだよ、いつもしに行ってんだ」
ルフィくんのかわり答えてくれたウソップさんを見ると、「俺の華麗なるボールさばきを見るか?」と得意気な顔で言われたけれど、苦笑いして首をふっておいた。
『やめておきます、今日は真っ直ぐ家に帰るつもりだったんで』
「ええ〜いいじゃんかよ〜」
ムスッと音が付き添うなほど拗ねたような顔をするルフィくんに「ごめんね、また今度誘ってくれる?」と言うと、ぱっと表情が変わった。
「分かった!!じゃあ明日行こう!!!」
「明日はしないでしょ!」
ぺしっとナミさんに叩かれたルフィくんはようやく腕を離してくれた。
良かったとホッとして、「それじゃあ私はこれで…」と頭を下げると、「おう、じゃあな!」とルフィくんが笑顔を返してくれた。
そんな彼に手を降って背を向けようとしたとき、ゾロさんと一瞬目があった気がしたけれど、多分気のせいだろう。
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