夢小説 完結 | ナノ
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Cinderella 3


「眠れない?」

『…高尾くん…』


夜になってなんとなく部屋のベランダに出ると、隣のベランダに苗字ちゃんを見つけた。

三日間連続で舞踏会が開催される間は、城に滞在できるらしく、赤司が苗字ちゃんはもちろん俺や真ちゃんの部屋も用意してくれた。

どこか困ったように笑う彼女の姿に、胸のあたりが嫌なざわつき方をした。


「…そっち、行ってもいい?」

『え…い、いいけど…』


まさか…。
そんな台詞を言われる前に隣に飛び移ると、苗字ちゃんが目を丸くした。
「あ、危ないよ!?」「だーいじょぶだって!」
心配してくれる彼女の頭を撫でて笑顔を向けると、苗字ちゃんも小さく笑ってくれた。


「おっ、笑った」

『え?』

「言ったろ?苗字ちゃんは笑った方がいいって」


自分より下にある小さな頭をまた撫でると、苗字ちゃんがゆっくりと顔をうつむかせた。

迷ってる。

そんな顔をしていた。
そりゃそうだよな。
急にあんなこと言われたって困るよな。


“それなら、決めなくちゃいけないな…。誰が君と結ばれるか”


赤司の言葉に全員が黙った。
王子が四人。
でもシンデレラは苗字ちゃん一人だ。
誰か1人、彼女と結ばれれば物語はハッピーエンドで終われる。
じゃあ、その1人とは?
四人の顔を見るとそのうち三人が複雑そうな顔をしていた。
ただ一人、赤司だけは冷静そのものだった。


“…君が決めるんだ。苗字さん”

“え…”

“君が決めるべきだと、俺は思うよ”


少し冷たいようにも思えるその言葉。
でも、それは赤司なりの優しさだったのだろう。
彼女を思う、分かりづらい優しさ。

小さく、不安そうに下を向いている彼女は気づけるだろうか。
気づいてしまうのだろうか。
もうひとつの道に。


『…高尾くん?』

「ん?…あー…ボーッとしてた。ごめんごめん」

『…寝た方がいいんじゃ…』

「平気平気。それより…んな顔した苗字ちゃん放っておけねえって」


「大丈夫?」とありきたりな言葉をかけると苗字ちゃんは、やっぱり頷いて返してきた。
こういう聞き方をするべきではなかったな。
大丈夫と、答えるに決まってる。


「…苗字ちゃんはさ、あの四人のうち誰かを選べる?」

『っ!』

「優しいからなぁ…苗字ちゃんは…」


ソッと柔らかく目を細めて綺麗な黒髪に指を通すと、苗字ちゃんはまた視線を落とした。


『誰かを選ぶなんて…私にする資格ないよ…』

「んー…そこは気にしなくていいと思うぜ?誰を選んだって、選ばれた人は何も言わねえよ。でも…」

『でも?』

「…選びたい人間がいないんじゃないかなって思ってさ」

『っ!』


どうして。
そんな表情で勢いよく顔をあげた彼女に自分の勘のよさに嫌気がさした。
当たって欲しくなかった。
でも…やっぱりそうだよな。
自嘲気味に笑ってからソッと白い頬に手を伸ばすと、ほんの少し冷たかった。
どれくらいここにいたんだろうな。


「苗字ちゃんは嘘つけないよなあ」

『え?…それって、どういう…?』

「…俺、苗字ちゃんには幸せになって欲しいんだよなあ…。…だからさ、今からすんげぇ馬鹿なこと言うわ」

『…馬鹿なこと?』


キョトンとしている苗字ちゃん。
そんな顔も可愛いけれど、これ以上彼女に飲まれるわけにはいかない。


「俺には苗字ちゃんを幸せにしてあげることはできない。けど…幸せになってよ、苗字ちゃん」

『たかお、くん?』


分かっているのかいないのか、どこか不安げな顔をする彼女に伸ばしかけた手をグッと押し止める。
彼女の幸せに必要なのは、俺じゃない。
ニッと笑ってみせてから、「おやすみ」と一言言って自分の部屋の方へ飛び移る。

振り返らない。振り返っては意味がない。
背中に感じる視線には気づかないフリをして部屋へ入ると、小さくため息がもれた。


「…良かったのか?」

「っ!…ははっ…何だよ真ちゃん、いたのかよ?」


暗かった部屋の明かりがつけられたかと思うと、いつの間に入ったのかうちのエース様がいた。
なんだ、聞いていたのか。
「盗み聞きなんて真ちゃんってばそんなに俺のこと気になんの?」なんてふざけて返すと「茶化すな」と真ちゃんが眉を寄せた。


「…いいんだよ。むしろ、苗字ちゃん困らせるんなら言わない方がいいだろ?」


笑っているつもりだけれど、多分うまく笑えていないのだろう。
けど、それでいい。
彼女のためになるならそれでいい。

シンデレラの本を探していたとき、宮地さんだって言っていた。


“アイツが幸せになれるんなら相手は俺じゃなくてもいい”
“…けど、あの花宮さんっすよ?”
“…別に花宮の肩持つわけじゃねぇが…。白雪姫の本を読んでたとき驚いたよ、花宮が身をていして苗字を庇ったことに”


そう言って宮地さんは悔しそうな顔しながら笑っていた。
その笑顔は多分、宮地さんも分かってしまったということだったんだと思う。
自分じゃない。彼女を幸せにできるのは自分じゃないと。

どこか不満足気な顔をしている真ちゃんだって気づいているんだ。
目を細めて笑ってみせると、真ちゃんにため息をつかれた。

でも、いいんだ。
俺だけじゃない。
宮地さんだって、黄瀬だって、それに赤司だって身を引く覚悟ができたんだ。
俺だけカッコ悪ぃことできねぇよ。
ま、もし苗字ちゃんが泣かされたら黙ってねぇけど。

ゆっくりと振り返って窓から空を見上げると、何処と無く寂しげにでも爛々と月が輝いていた。

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