夢小説 完結 | ナノ
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Cinderella 4


※視点変更有り
 主人公→火神


高尾くんの言葉の意味、全部は分からなかった。
でも、何かとても大切なことを言われた気がする。


“いくら夢だったとしても、結婚は好きな人とするものです”


人魚姫の世界の中で私はそんなことを言った気がする。
ぼんやりとした意識の中でそんなことを考えていると、ふいに声が聞こえてきた。


「苗字さん」

『っ!?』

「ああ、驚かせてしまったね」


「おはよう」と綺麗に笑ったのは氷室さんだった。
そっか、私眠っていたんだ。
慌てて起き上がって「おはようございますっ!」と頭を下げると氷室さんは優しく撫でてくれた。


「部屋の外で待っているから、着替えたらおいで」

『は、はい』


氷室さんが出ていくのを見送ってから大きなクローゼットを開けると、流石と言うべきか綺麗なドレスがたくさん入っていた。
そのなかから一番シンプルなものを選んで着ようとしたのだけれど。


『背中のボタンが閉められない…』


どんなに手を伸ばしても届かないそれにはあっとため息をつく。
申し訳ないけれど、氷室さんに助けてもらおう。
ヒョッコリと扉から顔を出すと「着替えられた?」と氷室さんに尋ねられた。
それに首をふると、氷室さんが不思議そうに首を傾げた。


『…あの…背中のボタンが閉められなくて…申し訳ないのですが、手伝ってもらってもいいですか?』


恐る恐る尋ねると氷室さんはちょっと目を丸くしたあと、困ったように眉を下げた。
迷惑だっただろうか。
思わず視線を落とすと「中でするよ」という氷室さんの言葉に顔をあげる。
いいんですか?そんな意味をこめて氷室さんを見上げると小さな苦笑いが返ってきた。


「俺はね。でも、あまり他の人に肌を見せてはいけないよ?」

『?他の人??』

「俺にとって、君は妹みたいだから良いってことかな」


そう言って氷室さんは背中のボタンを閉めてくれた。
氷室さんがお兄ちゃん。
本物の兄はもう会えない所へ行ってしまったけれど、氷室さんがもしお兄ちゃんだったらきっと凄く素敵な兄になるんだろうな。
「ありがとうございます」とお礼を言うと、氷室さんは緩く首をふった。

それから二人で部屋を出て長い廊下を歩き出すと、向かった先は昨晩、皆で集まった部屋だった。


「おはよう、苗字さん。昨日は眠れたかな?」

『うん。おはよう赤司くん』


中に入るともう皆揃っていた。
一番最後だったのは私が寝坊したからだ…。
なんだか恥ずかしい。
他のみなさんにも挨拶をして空いている席に座ると、並んでいる食事からいい香りがした。
「食べていいよ。俺たちは先に食べさせてもらったからね」という赤司くんの言葉に頷いてから朝食をとらせてもらった。


「そういえば…今夜の舞踏会、苗字さんは俺と踊ってくれるかい?」

『え?』


朝食を食べ終えて紅茶を飲んでいると、ふいに赤司くんがそんなことを聞いてきた。
「だ、ダンスなんてできないよ?」「大丈夫。できるさ」「え、む、無理だよ!」「そんなことないさ、ここにいる全員、練習なんてしたことがないのにできるんだから」
その台詞に隣に座る火神くんを見ると「い、一応な」と赤い顔で頷かれた。


『でも…』

「不安なら少し練習しようか?今からならおれが相手をできるよ」


そう申し出てくれた氷室さんに「いいんですか?」と首を傾げると「もちろん」と笑って頷き返された。
それならお願いしようかな。
「お願いします」ペコリと頭を下げると氷室さんはまた優しく髪を撫でてくれた。









「上手だよ、苗字さん」

『あ、ありがとうございます』


氷室さんとのダンスの練習は楽しかった。
というか、したことがないはずのそれは、まるでそれを知っているように体が滑らかに動いてくれるものだから、楽しいと思えるのかもしれない。
「休憩しようか」氷室さんの言葉に従って休んでいると、見学していた森山さんが歩いてきた。


「つ、次は是非俺と!!!」

「ダメに決まってんだろ!」


はいはい!と手をあげる森山さんは笠松さんに頭を叩かれていた。
痛そうだ。
森山さんと踊るのもいいのにな、なんて思って口に出そうとすると、その前に氷室さんが「それじゃあ」と声をあげた。


「次はタイガに彼女の相手をしてもらおうか」

「はあ!?」

「俺は今から赤司くんを手伝ってくるからよろしく頼むよ」


そう言えば、赤司くんはお城の人に仕事があるからと言って連れて行かれていた。
氷室さん優しいなあ。
「笠松さんと森山さんも行きましょう」と言って氷室さんが二人に声をかけると、「んじゃ、俺たちも城の探索でもすっか」と高尾くんと緑間くんもいなくなってしまった。
残されたのは私と火神くんだけ。
ポカーンとした顔で固まっている火神くんに「大丈夫?」と声をかけると、大袈裟に頷かれた。


『あの、火神くん。嫌ならダンスの相手しなくてもいいんだよ?もう十分氷室さんに教えてもらったし…』

「や、嫌じゃねえよ」

『ホント?』

「…ん」

『じゃあ、お願いしていいかな?』


自分よりも大きな火神くんを見つめていると、少し恥ずかしそうにしながら手を差し出された。
つい笑ってしまってからその手をとると、鳴っていないはずの音楽が聞こえてきた気がした。


『…スゴい…本当に踊れるんだね…』

「お前もできんだろ」


他愛のない話をしながら、二人でダンスを踊る。
楽しい。
氷室さんとはまた違う、少しだけぎこちなく添えられた手からは優しさが伝わってくる。
流れに任せて次のステップを踏み出そうとすると、ふいに火神くんが足をとめた。


『?火神くん?どうし』


どうしたの?そう問いかけるつもりだったのに、言葉が途中で切れてしまった。
どうして、そんなに悲しそうな顔をしているの?
何かに堪えるように眉を寄せて下唇を噛む火神くんはゆっくりと背中に添えていた手をおろした。
「火神くん?」と首を傾げると、火神くんが意を決したように顔をあげた。


「苗字っ、俺…!お前が…!!」

『私が?』

「っ……お前が…」


そこでまた火神くんの言葉は止まってしまった。
何かを言おうとしていた口は閉じられてしまい、火神くんの大きな手は拳を作っていた。


『あの、火神くん?大丈夫??』

「…わりぃ、大丈夫だ」

『…それならいいんだけど…今、なんて言おうとしてたの??』

「…苗字のこと、ちゃんとダチだって思ってるって言おうとしたんだよ」


ダチ…つまり友達だ。
なんで急にそんなことを言ったのだろう?
よく分からないけれど、“友達”だとあらためて言ってくれたのが少し照れ臭いけれどうれしい。
「うん、火神くんは私の友達だよ」と笑ってみせると、「…サンキュ」と言いながらもどこか寂しそうな表情をしていた。









火神side

「タイガも大人になったな」

「…タツヤ…」


踊り終えたあと苗字と別れて自室へ戻ろうとすると、その途中でタツヤがいた。
聞いてたのかよ。
なんだか気恥ずかしくなって顔をそらすと、タツヤが小さく笑った。


「…花宮の野郎のことは全く信用してねぇよ」

「じゃあ、なんで彼女に言わなかったんだい?」

「それは…花宮のヤツがどうこうじゃなくて、俺は…苗字を信じようと思ったんだよ」


苗字は花宮のことを“特別”に思っている。
花宮は木吉先輩の足を壊した最低なクソヤローだ。
それでも。


「アイツが選んだのが花宮なら、俺がどうこう言うことはできねぇだろ」

「…タイガ…やっぱり、大人になったな」


ソッと目を伏せたタツヤは何処と無く嬉しそうだった。
そんなタツヤにわざと悪態をついて返すと、少しだけ胸のあたりがなんだか温かく感じた。

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