夢小説 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
92話 夏 が 終わる


「ノヤっさん…もう夏休みも終わるな…」

「そうだな、龍…」


遠い目をして窓の外を見つめる田中と西谷。「馬鹿言ってないで、手え動かせ」と縁下が冷たい目を向けると、「「はい」」と素直に頷いた2人は止めていた手を動かした。
夏休みもあと数日。つまり、もうすぐで学校が始まるのだ。練習に勤しんでいたバレー部の元に現れた武ちゃんが「宿題は大丈夫ですか?」と眼鏡を光らせたのが昨日のこと。その問いかけに顔を逸らしたのはもちろん例の4人だ。そのうちの2人、田中と西谷が泣きついた先は我らが縁下先生と私である。
あー。あー。と頭を抱えながらも、なんとか課題を進める2人に苦笑いを浮かべていると、隣から縁下の大きなため息が。


「お疲れ、縁下」

「おー…苗字まで悪いな…」

「縁下に謝られることはないって」


なんだかんだ言いつつ2人の面倒を見てあげる辺り、縁下はお人好しだと思う。目を合わせて小さく微笑んでいると、不意にポケットに入れていた携帯が震えた。あ、鉄朗だ。
SNSに受信されたメッセージに目を通すと、“今何してる?”とたった一言届いていた。


今は、お馬鹿さんたちの宿題みてる。

は?宿題?

そう、田中と西谷…うちの坊主とリベロの

どこで

田中の家ー


そこでテンポよく返されていたやり取りが止まる。あれ、と首を傾げると、今度は携帯に着信が入る。このタイミング。まさか。
相手の名前を確認すると、予想通りさっきまでSNSで会話をしていた相手。なんでわざわざ電話?と不思議に思いながら、「ちょっとごめん」と一言みんなにことわって電話を取ると、鉄朗からの第一声は随分と低い声。


「…お前何してんの?」

『?何って…だから、宿題の手伝いだけど?』

「それはいい。そうじゃなくて、なんで坊主くんの家に居るのかって聞いてんだけど」


なんでって。それも答えは同じだ。宿題の手伝いをするため。
どこか怒った声色の鉄朗に眉を下げると、それを見た縁下が心配そうに「大丈夫か?」と声をかけてくれる。それに緩く笑んで頷いてみせると、スピーカーからは大きなため息が聞こえてきた。


「…お前、なんで俺が怒ってるか分かってねえだろ?」

『…やっぱり怒ってるの?なんで?』

「なんでって…。あのなあ、彼女が他の男の家に居ていい気持ちする彼氏なんている訳ねえだろうが」


呆れたように言う鉄朗。そ、そういうものなのか。
彼女とか彼氏なんて未だに聞き慣れない単語に少し照れくさくなっていると、電話越しからもう一度ため息。


『ご、ごめんなさい…』

「…まあ、部のためっつーなら、“マネージャー”としては仕方ねえのかもしれねえけどよ。今度からそういう時は俺にも一言言ってくれると嬉しいんだが」

『う、うん…。でも、あの、本当に心配なんてしなくていいからね?男の家って言っても田中たちだし』

「……まじで鈍感だな…。ほんの少しだけ田中クンたちに同情するよ」


鈍感?同情?鉄朗の言葉に首を傾げていると、「さっきから誰と電話してんだ?」と田中が怪訝そうに眉根を寄せる。そろそろ勉強に戻るとしよう。
「ごめん。そろそろ切るね」と鉄朗に声をかけると、「…おう」と少し不機嫌そうに返ってきた返事。後で家に帰ったらもう一度掛けようと思いつつ電話を切ると、「もういいのか?」と縁下に声をかけられる。


『うん、もう大丈夫』

「相手誰だったんだ?」

『鉄朗だよ。音駒の主将で従兄弟で、それから、』


それから、私の。その先を言うのは一瞬躊躇した。躊躇したけれど、

“烏野の奴らに伝えとけよ”
“かっこいい彼氏が出来ましたって”


「?名前?どうした?」

『…私…彼氏、出来たんだ』

「「「………は?」」」

『だから私、付き合ってるの。…音駒の主将で、従兄弟の、鉄朗と、』










「「「……はあああああああああ!?!?」」」


三人分の大きな声が響いた田中の部屋。
次の瞬間から始まった質問攻撃は、「うるせえ!!」と田中のお姉さん、冴子さんが乗り込んで来るまで続いたのだった。

prev next





00681