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91話 白布 に 遭遇


東京から戻ってきたその日の部活で、潔子さんと仁花ちゃんに鉄朗と付き合う事になった事を伝ると、二人とも目を丸くして驚いた後、「おめでとう」「おめでとうございます」と嬉しそうに笑ってくれた。
ほかの部員にも言おうか迷ったけれど、その日はタイミングがなく、結局言わずに帰ることに。まあ、私としてはわざわざ言わなくてもいいかなと思っているので、別にいいのだけれど、新幹線に乗り込む際、「烏野の奴らに伝えとけよ」「?なんて?」「かっこいい彼氏が出来ましたって」と鉄朗が言っていた。「別に言わなくても、」と返すと、「絶対言え」と物凄く真剣な表情で言ってくるものだから、つい頷いてしまったのだ。とりあえず、潔子さんと仁花ちゃんに報告したしこれで大丈夫だろうか。

このまま岡先生の所に東京土産を届けてしまおうと、帰宅路とは別に通い馴れた通勤路を歩いていると、丁度目の前に小さな子猫が。にゃー。と鳴くその子が可愛くて、つい「にゃー」と鳴き真似をして子猫を撫でると、「ぷっ、」と後ろから吹き出すような笑い声が。


『っ!あ、あの…』

「え、あー…すみません。つい…」

『い、いえ…こちらこそすみません…』


ふり向いて、吹き出した相手を確認すると、ジャージを着た男の子が立っていた。うわ、恥ずかしすぎる。真っ赤になった顔を隠すように俯かせて、小さな声で謝ると、男の子が少し慌てたように声をあげた。


「いや、あの、ホントすみません。でも、あの、別におかしくて笑った訳じゃないというか…なんかこう…微笑ましくて、」


フォローしてくれようとする彼に、数回瞬きを落としてから、小さく微笑むと、ホッと息をついた男の子も安心したように笑みをこぼした。
そこでふと、彼の着ているジャージに目がいく。あ、このジャージは。


『白鳥沢…?』

「え?ああ、はい。白鳥沢男子バレー部の白布です」


「どうも」と頭を下げてくる白布さんに、慌てて「烏野バレー部マネージャーの苗字名前です」と自分も頭を下げると、顔を上げた白布さんが小さく目を見開いた。


「烏野…?あの速攻の?」

『はい。“あの”速攻の烏野です』


やっぱり影山くんと日向くんの速攻は有名らしい。苦笑いしながら頷くと、白布の目がほんの少し細まった。
「…苗字って…もしかして、牛島さんと知り合いなんじゃ…?」『よ、よく知ってますね…。中学の時に、少し』「確か2年…だよな?」『あ、はい』「じゃあ、敬語はなしでいいよ。俺もやめるし」
そう言って軽く笑む白布くんに「ありがとう」とお礼を言うと、「お礼を言われるような事じゃないだろ」と笑われてしまった。


「にしても…そうか…あんたが…」

『?私が何?』

「いや、前に牛島さんから苗字の話を聞いたことがあって…どんな子なんだろうと思ってたんだけど…」

『…だけど?』

「…猫と会話できる奴って覚えとく」

『え!?そ、それはちょっと…』

「ぷっ…冗談だよ。悪い、思い出したら面白くてついからかっちまった」


「ごめんな」と笑いながら謝ってくる白布くん。白鳥沢と聞くと、強豪で厳しいイメージが強いせいか、こんな風に話してくれる白布くんの姿が少し意外だ。というか、私の偏見が強かったのかもなあ。
じっと白布くんを見ながらそんな事を考えていると、その視線に気づいた彼が不思議そうに首をかしげた。


「なに?」

『あ、いや…その…白鳥沢の選手って聞いて、てっきり、もう少し厳しい人なのかなって…』

「ああ。まあ、そういうイメージ結構持たれてるけど、バレーしてなきゃ、うちの部員も普通の学生だよ。牛島さんは少し特殊だけど」


あ、それは分かるかも。あの人には、いつでも“バレーボール”のイメージが付いて離れなさそうだ。
学校生活を送る若利先輩をイメージしてくすくす笑っていると、白布くんが思い出したように口を開いた。


「…烏野は、確か一次予選勝ち抜いたんだっけ」

『うん。無事予選トーナメント出場が決まってるよ』

「ふーん…じゃあ、うちと当たる可能性もあるわけか」

『…そうだね』


若利先輩率いる白鳥沢学園。そこを倒さなければ全国に行くことは出来ない。もちろん、白鳥沢以外にも、青城や伊達工、インターハイで交える事はなかったけれど、和久谷南だっている。全国への道は簡単ではない。けど、だからこそ。


『全部倒して、全国へ行く』

「!」

『…“覚悟してて下さい”、って若利先輩に伝えといてね』

「…望むところだよ」


そう言った白布くんは、とても清々しい顔をしていた。

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