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86話 東京 で 観光


お盆休み2日目。木兎さんの提案で東京を案内して貰うことになった。


「おーい、早くしろー置いてくぞー」

『い、今行くよ!』


準備を終えたバタバタと黒尾家を出ようとする。着替えて準備完了!としていた所を鉄朗ママに捕まってしまい、髪を弄られたのだ。鉄朗器用だった。凄い綺麗に編み込まれた…。
お礼を言いつつ、お気に入りのミュールを履いて出ると、黒尾家の前には既に木兎さんたちが。


『お、お待たせしました!』

「おー!苗字ちゃんおーっす!」


「遅くなってすみません!」と頭を下げると「いいよいいよ!」と笑ってくれる木兎さん。いい人だ。
顔を上げて鉄朗と、半ば強制的に参加を決められた赤葦くんを見れば、2人とも何故か少し目を丸くしている。どうしたのだろうか?も、もしかして、何処か変なのだろうか。
自分の格好を見直して「な、何か変??」と鉄朗と赤葦くんに尋ねると、耳を赤くした鉄朗が少しだけ顔を背けた。


「…や、変じゃねえよ」

『ほ、本当?大丈夫?』

「…おう。つか、お前の私服久々に見たわ…」

『…やっぱり変なんじゃ…』

「大丈夫、変じゃないよ。…似合ってるし、可愛いよ」


褒めてくれる赤葦くんにぱちぱちと瞬きを落とす。こうも直接褒められると恥ずかしい。赤くなる頬を隠す様に俯いたとき、不意に木兎さんに右手を掴まれた。


「うし!そんじゃあ、しゅっぱーつ!」


元気よく声をあげて歩き出した木兎さん。そんな彼に手を引かれて歩き出せば、後ろから赤葦くんのため息が聞こえてきた。…彼には心休まらない休日になりそうだ。










「おおー!ちょー久々に来たわー!!」

『…おお…さ、流石に高いですね…』


観光。ということで、連れてきて貰ったのはスカイツリーだ。目を輝かせて上からの景色を楽しめば、隣で鉄朗がニヤニヤと見てくることに気づく。馬鹿にされてるような気がして、「なに?」と少し顔を顰めると、楽しそうに笑う鉄朗にポンポンと頭を撫でられた。


「いや?可愛いなーと思って」

『…うそ!田舎者を馬鹿にしてるでしょ?』

「してねえよ。鉄塔とスカイツリーの見分けもできないからってしてねえよ」

『それは田中や西谷に日向くんぐらいだから』


ケラケラ笑う鉄朗を尻目に、ガラス越しに見える都会の景色に目を移すと、「ねえ、あの人たちカッコイイね」と後ろから女の人の声が。少しだけ窺うように其方を見れば、チラチラと鉄朗たちを見ていると女の子のグループがいるものだから思わず苦笑いを浮かべてしまう。

カッコイイかあ。確かに、鉄朗だけでなく、赤葦くんも木兎さんも整った顔立ちをしている。私なんかが一緒にいてもいいのだろうか。
3人の顔を盗み見て、小さく息をはくと目敏くもそれに気づいた赤葦くんが不思議そうに首を傾げた。


「苗字?どうかした?」

『え?…あ、ううん。なんでもないよ』

「…本当に?何だか暗い顔してたけど…?」


流石は強豪校のセッターと言うべきか、良く見ている。心配そうに眉を下げる赤葦くんにへらりと笑って見せていると、先ほどの女の子たちがこちらへ歩いてきた。あ、これってもしかして。


「あのー…ちょっといいですか?」

「?はい?」

「この後お暇ですか?もしよければ、お昼とかご一緒してもいいですか??」


やっぱり。逆ナンだ。東京の女の子って積極的。
ほうって呆けた顔で逆ナンされる様子を見ていると、「あー…」言葉を濁した鉄朗がこちらへ視線を向けてきた。


「コイツも一緒だけど?」

「あ、じゃあその子も一緒でいいので!是非!!」


凄い。かなりの肉食系だ。
おおっと思わず感心していると、何感心してんだよと言うように鉄朗に睨まれてしまった。
「ね?行きましょうよ?」と1人の子が赤葦くんの腕をとろうとすると、赤葦くんはそれをスルリと躱してしまう。え、と小さく声を漏らす女の子に、申し訳なさそうに眉を下げた赤葦くん。そんな彼の腕が伸びてきたかと思うと、大きな手に肩を引き寄せられる。


「すみません。今日は彼女“専用”のエスコート係なので」


な、なんてスマートでカッコイイ断り方…。歯の浮くような台詞なのに、似合っているから不思議だ。ぽかんとしたまま赤葦くんを見つめていると、今度は両手をそれぞれ捕らえられる。


「ま、そういうことなんで」

「よーし!んじゃ、次行こうぜー!!」


右手に鉄朗。左手に木兎さん。どうしようこれ。両手に花どころじゃない。
というか、こんなにくっつかれては周りの視線が凄いんですが。女の子たちが凄い顔で睨んできている。
さっさと歩き去ろうとする3人に従ってその場から離れると、少し距離が空いた所で、「ふふっ」と思わず笑みを零す。それが聞こえたのか足を止めた3人。ハテナマークを頭に浮かべて「?なんだよ?」と鉄朗が首を傾げてきた。


『いや、なんていうか…3人ともかっこいいなあって』

「は?」


改めて思ったことをそのまま口にすると、ぽかんとした顔で3人は固まってしまった。え、なに?褒めたつもりだったんだけど、変なこと言ってしまった?
少し首を傾げながら「どうしたの?」と尋ねると、みるみるうちに首元まで赤くした鉄朗におでこを弾かれた。


『っいた!』

「…こんの天然おだて上手2号目!」

『は?に、2号?』


2号ってじゃあ1号がいるのか。いや、そもそも天然おだて上手とは?額を擦りながら唇を尖らせると、赤葦くんは苦笑いを浮かべ、木兎さんは何故かテンションがうなぎ上りしている。
「俺ってかっこいい?なあなあ赤葦?」「そーですね」なんてやり取りをする2人に小さく笑ってしまうのは仕方ない。だって赤葦くん、ほぼ棒読みなんだもん。

そんな2人に慣れているのか、あまり気にしていない鉄朗は「次どこに行くかなー」と携帯を見ながら思案している。ほら、やっぱり。こうして見ると横顔もかっこいいじゃないか。学校でもモテているのかな。
女の子たちに囲まれる鉄朗を想像して、流石にこれはないと首をふり、今度は鉄朗の隣に1人の女の子が立つところを思い浮かべると、なんとも言えない気持ちになった。


「?苗字?どうしたの?」

『っえ??』

「難しい顔になってるよ」

『え、あ…な、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ』

「そう?それならいいけど…」


心配してくれる赤葦くんには申し訳ないけれど、少し嘘をつかせてもらった。鉄朗に彼女が出来る想像をしてましたなんて言いづらいし。
いつの間にか木兎さんも加わり、2人で何処へ行くのか決めた鉄朗が「よし」と顔を上げて、未だに掴んだままだった右手を握り直した。


「次行くか」

『…うん!』


掴まれた手がすこしだけ熱い。
もし、鉄朗にこっちで彼女が出来ることになったら、こうして手を繋ぐのだろうか。優しく笑いかけて抱き締めて、キスをしたりするのだろうか。


『(なんだろうこれ…。なんだかこう…嫌だ)』


想像しただけで胸の辺りがザワザワする感じ。
この感情の名前は、なんだっただろうか。

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