83話 1次 予選
インターハイ予選、青葉城西に敗北してから約3ヶ月。ついに春校予選、1次予選の日が訪れた。
合宿から帰ってきてからというもの、二口くんや岩泉さんと何やかんやあったりしたけれど、とにかく先ずは、何より春校だ。集中集中。
試合会場となっているバスの中で、気合いをいれようと頬を叩くと、隣に座っていた潔子さんに「どうしたの?」と驚かれてしまった。申し訳ない。
『それじゃあ、私と仁花ちゃんは上がりますね』
「うん。お願い」
春高一時予選第2回戦対扇南戦、烏野高校の初戦が始まる。
仁花ちゃんと2人で二階のギャラリーに登って試合開始を待っていると、帽子を被ったおじさんが「お?」と小さく声を上げた。つられてソチラを見ると、見覚えのある人が。
『烏養監督…?』
「え?」
そこに居たのは烏養監督…いや、元監督言うのが正しいだろうか。去年の夏に見たときとあまり変わらないけれど、後ろに小さい子達が、くっ付いてきている。
親しげに話している所を見ると、おじさんと監督は知り合いなのだろうか。
ついソチラに気をとられていると、ピーッという試合開始のホイッスルの音が鳴った。試合開始だ。視線をコートへ落とすと、早速旭さんのサーブが決まった。
『ノータッチエース!』
「凄いっ!」
わあっと仁花ちゃんと2人で喜んでいると、不意に監督と目が合った。あ、挨拶。ぺこりとお辞儀を一つして「こんにちは」と言うと、監督がクシャっと顔を緩めて笑ってくれた。わ、笑顔だ。
「久しぶりだな、苗字…だったか?」
『覚えていて下さったんですね…』
「短い間でも、教え子だったからなあ。それに、岡埜んとこの弟子なんだろう?あいつが自慢げに話してたよ」
あ、そっか。岡先生は監督の紹介だった。
「岡埜先生には、お世話になってます」「いやいや、アイツも喜んでるよ」
お辞儀をして監督と話を勧めている間、試合は順調に進んでいた。このまま行けば、1セット目は先取できそうだ。
その予想通り1セット目は25対16で烏野が勝ち取った。良かった。ニコニコ上機嫌な仁花ちゃんと2人で笑いあっていると、何やら相手チームの応援側から声が聞こえてきた。
「ー“本気”も、“必死”も、“一生懸命”も、格好悪くない!!!」
二階席から選手に向けられた言葉。
ああ、その通りだなあ。なんて感心していると、今まで暗いムードが漂っていた相手ベンチで、1番の人が大きく声をあげた。
「烏野倒す!!一時予選突破!!打倒白鳥沢!!!」
敵ながら、なんて清々しい。
思わず笑みを零すと、隣の仁花ちゃんもクスクスと笑っていた。勿論馬鹿にするようなそれではなくて、単純に凄いと思ったから。
結果は25対13でうちの圧勝。扇南の彼らは2回戦敗退となった。でも、いい試合だった。
敵味方どちらにも拍手を送りながら体育館を後にする扇南の選手を見送っていると、さっきセット間で大声をあげていた人が下に降りていくのが見えた。
OBだろうか?でも、少し幼く見えるような。とにかく扇南の応援に来ていたのであろう。
『…扇南、次にあたるときは今より強いだろうね』
「え?」
『“そういう”顔してた』
悔しそうな顔を思い出してつぶやくと、「そうですね」と仁花ちゃんも緩く微笑んだ。
負けるのは、嫌だ。
でも、負けて悔しいと思う気持ちがあるからこそ、強くなれる。次は勝ちたいと思うのだ。
そして、その悔しさを晴らすために、今、私達はここにいる。
次で、一時予選最後の試合。
相手は、2m。
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