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81話 青城 の 3年生


二口くんが帰った後、及川さんと岩泉さんの視線が痛い。


“それじゃ、またな、苗字”
“うん、またね”

手を振って帰ろうとする二口くんを見送ろうとしたとき、ちょうどそのタイミングで及川さんと岩泉さんも治療室から出てきた。
2人の姿を捉えると、何を思ったのか二口くんは形のいい唇を耳元へ。

“おれ、マジで本気だからな?”

それだけ言うと、満足そうに笑って帰ってしまった二口くん。残された私はというと、突然の耳打ちに顔は真っ赤に。二口くん、ずる過ぎる。
気まずく思いつつ、後ろにいる及川さんたちを見ると、何故か2人の機嫌が損なわれている。なんで??


「はっはっは、いやー若いねえ」

『あ、え、え?お、岡先生……??』

「名前ちゃんも、なかなかに罪作りだね」


罪作り?何か悪いことでもしただろうか。
首を傾げて考えてみたけれど、何も思い浮かばない。とりあえず謝るべきだろうかと2人を見れば、何故か罰が悪そうな顔をした2人に顔を反らされた。
どうしよう。本当に怒らせてしまっている?


『あ、あの…す、すみません…』

「は…、や、苗字には、なんも怒ってねえよ」

『え?』

「そうそう苗字ちゃんはなーんにも悪くないよ」


ポンポンと優しく頭を撫でてくれた及川さん。
柔らかくなった2人の表情にホッとしていると、「ああ、そうだ」とどことなく面白そうな顔をした岡先生がポンッと両手を合わせた。


「まだ昼だけど、名前ちゃん今日はもういいよ」

『え、でも…まだ二口くんしか見てませんよ?』

「いいのいいの。合宿大変だっただろう?疲れてもいるだろうし、気分転換にお出掛けでもしたらどうだい?」


え、お出掛け??
思いもしなかった提案にキョトンと目を丸くすると、にっこり笑った岡先生が及川さんと岩泉さんの方を見る。


「そこで、2人にお願いしたい。名前ちゃんをエスコートしてもらえないかな」

「は、」

「え、」

『ええ!?』


な、何言ってるの岡先生!?もしかして酔ってる!?
「何言ってるんですか!」「1人で街に行ってもつまらないだろ?」「そういう問題じゃありません!」
他校の、それも先輩方に迷惑をかれる理由には行かないと慌てて岡先生を止めると、「いいですよ」と背後からケロッとしたような声が。
及川さん?今なんて??


「別にいいですよ、俺」

「まあ、部活も終わったしな」

『え!?そ、そんな無理しなくても…!』

「あれ?苗字ちゃん嫌?」

『い…嫌では、ないですけど…お2人にご迷惑をかけるわけには』


2人だって日々の練習で疲れているだろう。折角休める機会があるなら休むべきだ。
ブンブンと首と手を振って後ずされば、顔を見合わせた2人は、何が面白いのか、くくっと声を殺して笑った。


「迷惑じゃねえよ」

「そうだよ」

『で、でも…休めるときは休んだ方が、』

「苗字ちゃんと一緒にいたら、癒されるから大丈夫」

『いやされる??』


私、マイナスイオンとか出してる覚えはないのだけれど。パチパチと瞬きを繰り返して首を傾げていると、「んじゃ、行くか」右腕を岩泉さんに、「そうだね」左腕を及川さんに。え、ちょっと待って。


『あ、あの…?』

「それじゃあ岡先生またねー」

「世話になりました」

「はいはい。2人とも名前ちゃんをよろしくね」

『え?え??せ、先生!?』


2人に腕を引かれれば、自然と後ろへ歩き出してしまう。最後の望みと、岡先生を見たけれど、先生は至極楽しそうに手を振ってくれた。
そうじゃなくて、助けてください!!










「どこいこっかー?やっぱり買い物?」

「先ずは腹ごしらえだろ」


結局、連れ出されるままに2人と“お出掛け”へ。なんだか物凄く申し訳ない。
「どこに行きたい?」とわざわざ聞いてくれる及川さんに、少し考えてから答える。


『お2人は、お昼を食べましたか?』

「あ、そういえばまだだね」

『じゃあ何処かで食べましょう』

「おう。苗字何食いてえ?」

『お2人の好きな所で大丈夫です』


「んじゃ、ファミレスでいいか?」と聞いてくれる岩泉さんに頷き返すと、及川さんと岩泉さんは早速近くのファミレスの方へ歩き出す。
それに付いて行き目当てのファミレスに入ると、空いている席を探すようにグルリと周りを見た及川さんが「げっ!」と顔を歪めた。何かあったのだろうか。
及川さんの反応を不思議に思って彼の視線の先を追うと、そこには、2人と同じ白とペールグリーンのジャージの2人組が。あれって。


「あれ?及川と岩泉と…」

「あ、烏野のマネちゃん」

『あ、こ、こんにちは』

「マッキーとまっつん…なんでここいるのさ…」


はあっとため息をついた及川さんにマッキーさんとまっつんさん…確か、花巻さんと、松川さん、だっただろうか。2人は顔を見合わせて愉しそうに口角をあげた。
「俺らがいちゃ悪いのか?」「そ、ういうわけじゃないけど…」「なに?もしかして烏野のマネちゃんナンパしたのかよ?」「するか、馬鹿」
テンポの良い4人の会話。うちの3年生に負けないくらい仲がいい。ほうっとしながら4人の様子を見ていると、あ、と私に気づいた松川さんが奥の方へズレてスペースを開ける。


「どうぞ」

『へ?』

「立たせたままでごめんね?ここ座っていいよ」


どうやら、座るために隣を空けてくれたらしい。優しいなあ。
「あ、ありがとうございます松川さん。でも、先に及川さんと岩泉さんが座って下さい」と2人に譲れば、驚いた顔をした4人の視線が集まってくる。
何かおかしな事を言っただろうか。


「苗字ちゃん、まっつんの名前…」

『え?…あ、え!?もしかして間違ってましたか!?松川さんじゃないんですか!?』

「え、合ってるけど……よく知ってるね?」

『あ、それは、インターハイ予選のパンフレットで、選手名簿に載ってたので…』


「そちらは花巻さんですよね?」と松川さんの向かいに座る方を見ると、(おそらく)花巻さんは、軽く目を見開いたあと、目尻を下げて微笑んだ。


「そ。だいせーかい」

『間違えなくて良かったです。間違ってたら面目が無さ過ぎて…』


ホッと息をついていると、ムスッとした顔の及川さんが花巻さんを押しやりその隣へ。岩泉さんは先程空いた松川さんの隣へと腰を下ろした。
青城のレギュラー3年生が勢揃いしている。これは完全に私は邪魔者では…?
帰った方がいい気がして、それじゃあ私はと頭を下げようとすると、比較的広い席に座っていたからか、更に席を詰めた岩泉さんが「ここ座れ」と隣を開けてくれた。
わざわざスペースを作ってもらったのに、断るのは失礼かなあ。「ありがとうございます」とそこへちょこんと腰掛けると、斜め前にいる花巻さんが話し掛けてきた。


「名前聞いていい?」

『あ、えっと…苗字名前、2年です』

「苗字さんネ。俺は3年の花巻貴大」

「俺は松川一静な、よろしく」

『こちらこそよろしくお願いします』


ペコッと軽くお辞儀を返せば、「いい子だねー」と花巻さんが微笑ましそうに頬を緩めた。


『いい子だなんて…皆さんの方がいい人です。他校の私までお邪魔させて頂いて…申し訳ないです』

「いやいや、男だけで食べるより、苗字さんみたいな可愛い子がいてくれた方が嬉しいよ」

『あはは、花巻さんてお世辞が上手ですね』


ふふっと笑って「けど、ありがとうございます」と返せば、4人は何故か苦笑い。なんだろう。今日は私、失言が多いのだろうか。


「で?なんでお前ら苗字さんといんの?」

「俺らがいく整体師の先生んとこに居たんだよ」

「それで、苗字ちゃんの合宿の疲れを癒すために、3人でデートしようとしてたんだよねー」


ねー。と同意を求めるように笑顔を向けてきた及川さんに慌てて頷く。
それを見た松川さんが「なんだ、無理矢理じゃないのか」とつまらなさそうに言っていたのは気の所為だろうか。

それから、メニューに目を通してそれぞれ注文を終えると、昼過ぎで余り混んでいなかったからか直ぐに料理が運ばれてきた。ちなみに、私はエビグラタンだ。
「いただきます」と手をあわせて食べ始めると、熱々のグラタンに舌を火傷しそうになった。でも美味しいけど。時折会話を織り交ぜながらモグモグと食べ進めていると、ちょうど半分ほど食べ終えた頃に、「ねえねえ名前ちゃん、」にっこり笑った及川さんに呼ばれて顔をあげる。


「それ、一口貰ってもいい?」

『?グラタンですか?いいですよ』


「どうぞ、」とグラタン皿を押すと、スプーンで一掬いした及川さんは「あ、これも美味しいね」とグラタンを頬張った。
「ありがとう」と笑う彼にいえいえ、と首を振りつつ皿を引き戻すと、スッと目の前にスプーンに乗ったオムライスが。


「俺のも一口どうぞ」

『へ?あ、あの…でも、これは、その…』

「うん?もしかしてオムライス嫌い?」

『い、いえ、オムライスは好きですけど…』


ですけど、これ、所謂、あーんってヤツですよね?
断っていいのかな。でも、それって失礼になる?
グルグルと頭の中を回転させていると、隣に座る岩泉さんから助け舟が出される。


「困らせんな、変態」

「ちょ!なんで岩ちゃんが食べちゃうのさ!!」


差し出されていたスプーンに乗っていたオムライスは岩泉さんの口の中へと消えていった。
ほっとしながら及川さんを見ると、ムッと唇を突き出した彼は頬を膨らましている。可愛いと言ったら怒られるだろうか。
なんだか申し訳なくなって、少し考えてから自分のグラタンを掬って、「及川さん、」と彼を呼ぶと、岩泉さんと言い合いをしていた彼の視線がこちらへ向く。


『どうぞ』

「……え?」

『いえ、その…されるのは恥ずかしいんですけど、する方なら、いいかなって』


「要りませんか?」と首を傾げれば、「た、食べる!食べるよ!」と及川さんに手首を捕られ、そのままパクリとスプーンをくわえられる。
及川さんが食べてくれたことにホッとして、また自分のグラタンを食べ出すと、「苗字ちゃん苗字ちゃん、」と及川さんが楽しそうにこちらを見た。


「間接チュー、だね」

『……へ?』


間接、チュー……。

し…しまったっ!そこまで考えてなかった……!
ボッと顔に火がつく勢いで頬を首まで赤く染め上げると、ニコニコしていた及川さんの頭を、スパーンと花巻さんが叩いてしまった。…痛そうな音だったけど、及川さん大丈夫だろうか。
「ちょ!マッキーなにすんのさ!」「セクハラしたお前が悪い」「だな」
何かを話している皆さんの会話もうまく聞き取れず、とにかく顔を冷やそうとしていると、「大丈夫か?」岩泉さんが顔をのぞき込んできた。ち、近い。


『だ、大丈夫ですっ!』

「悪いな。あの馬鹿はあとでシバいとくからな」

『そ、そこまでしなくても…ちょっと驚いただけなので…』


あはは、と笑って見せたけれど、未だに頬が熱い。岩泉さんとの距離が近いせいもあるのかも。
「悪いな、」と眉を下げてもう一度謝ってきた彼に首を振ろうとしたとき、隣の席から赤ちゃんの泣き声らしきものが。急に聞こえてきたそれに驚いたのは私だけではない。泣き声の先を辿ろうとした松川さんが振り返ったその拍子に、松川さんの腕が岩泉さんの背中を押した。そう、押してしまった。


「『!?』」

「あ、岩泉悪……え、」


松川さんの小さな謝罪が聞こえてきたけれど、それどころではない。

赤葦くん、事故って意外に起きるものなんだよ。

近かった岩泉さんとの距離は、0センチになってしまい、唇には、いつかの時と同じ、柔らかい感触があった。

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