78話 木兎 の 教え
「うし、じゃあ行くか」
『え、あ、ちょっと!?』
夜の自主練時間になると、待ってましたとばかりに鉄朗に連行された。自分で歩くから腕は放してほしい。
もはやお馴染みである第三体育館に着くと、一昨日からの面子が全員揃っていた。どうやら、今日も3対3をするらしい。
「今日は大人しく点数つけな」という鉄朗の言葉に、分かってると返して点数板の横につくと、「大丈夫?」と心配そうに赤葦くんが声をかけてくれた。
「大丈夫だよ」と笑ってみせると、どことなく安心したような顔をした赤葦は「良かった」と微笑んだ。
イケメン過ぎて、目に毒だな。
それから暫く点数つけをしながは楽しそうにコートでプレーする皆を見ていると、途中日向くんのレシーブが乱れてしまい、赤葦くんのトスが少し低くなった。そこにすかさず月島くんと灰羽くんがブロックへ。
あ、これ流石に木兎さんといえど止められちゃうんじゃ。
「クッソ、今日もでけーな!1年のクセに!」
『!』
正面にそびえ立つブロック。そこへ木兎さんはただ打ち込むのではなく、ブロックにわざと当てて跳ね返ってきたボールを拾う。
今のは、“リバウンド”だ。
拾い直したボールを赤葦くんがトスをし、木兎さんが改めて打ち直したボールは鉄朗たちのコートへ。
凄い、さすが5本の指に入るエースだ。
「かっけええええ!!!」目を輝かせる日向くんに嬉しそうに頬を緩める木兎さん。鉄朗が日向くんを天然おだて上手って言ってるけど、確かに。
得意そうにリバウンドについて日向くんに説明する木兎さんを見ながら小さく笑っていると、「ほら、再開すっぞー」という声を合図に試合が再開した。
「赤葦ナアーイス!!」
「チビちゃんラスト頼んだ!」「!ハイ!」
7セット目の中盤、ブロックで弾いたボールを赤葦くん自らが取りに行った。ナイスレシーブだ。上がったボールを木兎さんがアンダーレシーブで日向くんにトスすると、それを見た鉄朗がニヤリと意地の悪い笑みを見せる。あ、悪い顔。まさか。
「!あ゛っ、お前らっ!よってたかって酷えぞ!!!」
うん、木兎さんの言う通りだ。これは酷い!
打ちやすいとは言えない二段トスと身長約160cmの日向くんに長身ブロッカーが3人。ホント、我がいとこながら意地が悪い。
これは叩き落とされるしかしないんじゃ、とネコチームの点数を加えようとしたとき。
『「「(天井に向かって打ったー!!?)」」』
日向くんの打ったボールは、灰羽くんの指先を掠り、見事にブロックアウトをとって床へと落ちた。え、今の狙ったの!?
『す、凄い!!!すごいよ日向くん!!!』
「ふえ!?」
「…今の…狙ったのか!?見事なブロックアウトじゃねーか」
あまりの衝撃に点数板から離れて日向くんに駆け寄ると、何故か日向くんの顔が赤くなった。あ、可愛い。
全員の気持ちを代弁するような鉄朗の問いかけに少し何かを考えるようにしたあと、日向くんは戸惑いつつも答えた。
どうやら、狙ったには狙ったけれど、日向くんに自身、狙えたことを驚いているらしい。
狙おうと思える時点で指先が見えているということ。それだけで凄い。
感心しながら、木兎さんに両手放しで褒められる姿を見ていると、目を輝かせた木兎さんがトンっと得意気に自らの胸を叩いた。
「2mの壁を相手に戦う小さな猛者に!!俺が!」
「また大ゲサな…」
「190cmから2mになった」
『しっ!細かいことはいいの!』
「必殺技を授けよう!!!」
「必殺技…!!?」
キラキラっと効果音が付きそうだ。日向くんの目がこれでもかと言うほど輝いている。日向くんの木兎さんて、どことなく似ているよな。
「おうよ!」と頷いた木兎さんは、楽しそうに口元を緩めて話し始めた。
「いいか、この技はな、言うなれば“動”と“静”による揺さぶりだ」
『動と静による揺さぶり…?』
「うお…うおお…!?」
どうしよう、私も気になってきた…。
「……また…カッコ良さげに言う…」「お前何の事かわかんの?」「予想がつきます」
2人の会話を聞きつつも意識は木兎さんの言葉へ。やけに真剣な顔で日向くんに教授する様子は、まるで師匠と弟子だ。
「ー何より自分が、「強烈な一発が打てる!」と思った瞬間が好機!」
「嘲笑うように…カマせ!!!」
『…え?つまり、それって…』
「フェイント、ですね」
冷静に答えてくれたのは月島くん。木兎さんを見る目がとてつもなく冷めている。
あー、フェイントかあ。納得して頷くと、必殺技の正体がフェイントと聞いてなおも目を輝かせ「スゲエ!!かっけえ!!!」と声をあげる日向くん苦笑い。
そして、最終日。合宿最後の試合で、梟谷相手にものの見事に“必殺技”を決めた日向くんに、木兎さんがチームメイトから睨まれていたのを見て、笑ってしまったのは、ここだけの話。
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