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77話 澤村 と 飲み物


熱中症のせいで倒れてしまい、合宿四日目の午後はほとんど寝て過ごしてしまった。夜はマネさんたちの部屋に戻ることができたけれど、皆さんに凄く心配された。特に仁花ちゃんに至っては、何故か泣かれてしまった。申し訳ない。
「今日は早く寝なきゃだめ」という潔子さんの言葉にしたがって、さっさと布団に入って休んだことが良かったのか、翌日の合宿5日目は目覚めから良かった。
これなら今日は普通に仕事ができそうだ。
グッと背伸びをして、まだ寝ている他のマネさんたちを起こさないように廊下へ。顔を洗って、よしっと気合を入れるために頬を叩くと、「苗字さん…?」驚いた顔をした影山くんが現れた。


『あ、おはよう影山くん!』

「っす…あの、体調は…?」

『バッチリ!ぐっすり寝たし、今日はちゃんと働くからね』


イェイ!とピースマークを作ってみせると、ホッと胸を撫で下ろした影山くんが「そうっすか」と顔を綻ばせた。あ、影山くんのこういう顔、あんまり見たことないかも。
「影山くん、早いね」「ロードワーク行ってて」「うわあ、朝からすごいね」
という会話をしながら歩いていると、向かい側から夜久さんとスガさんが歩いてきた。あの2人、どこか似ている気がするんだよね。話に夢中になっているのか、私たちに気づいてない2人に「おはようございます」と声をかけると、ギョッと目を丸くする。


「名前!?」

「え、苗字さん、もう大丈夫なの??」

『はい。心配かけてすみませんでした』

「ホントだぞ?俺たちのことだけじゃなくて、自分のことも気にかけろよ?」

『あはは、はい。気をつけますね』


似たようなことを赤葦くんにも言われたなあ。学習能力ないな、私。「今日はちゃんと仕事頑張りますからね!」とガッツポーズでスガさんを見れば、何故か微妙そうな顔をされた。










「よし、じゃあ次空きな。各自点数つけや主審に入れよ」


大地さんの言葉に「うーっす!」と部員が声を揃える。5校が参加しているこの合宿では、必ず一校空きが出るので、手が空いた学校は点数つけや主審を率先してやるようになっている。
早速点数板の方へ歩いていく日向くんと影山くんを見ながら、自分はドリンクの補充をしようとすると、「あ、名前、」大地さんに呼び止められた。


『?なんですか?』

「ちょっと付いてきてくれないか」

『え?あ、はい…』


大地さんの言葉に、歩き出した背中を素直に追いかける。大地さん、背中広いな。決して長身とは言えないけれど、大地さんの背中はとても大きい。きっと、器の大きさに比例しているのだろう。
頼もしい背中に小さく口元を綻ばせていると、不意に大地さんが立ち止まる。


「ほら、どっちがいい?」

『え?』


投げかけられた質問に、大地さんの後ろから顔を出すと、何故か自販機の前に立っていた。え、どういうこと?キョトンとしたまま自販機を見ていると、苦笑い浮かべた大地さんがもう一度「どっちだ?」と有名なスポーツ飲料水を2つ指した。


『どっちも好きですけど…?』

「じゃあ、こっちな」


ガタンと音をたてて出てきたペットボトル。それわ取り出し口からとると、「ほら」と大地さんが差し出してきた。え、と思って目の前のペットボトルと大地さんを交互に見ていると、何がおかしいのか大地さんが喉を鳴らして笑い出した。


「お前にだよ」

『…え!?い、いりませんよ??大地さんが飲んで下さい!』

「そうやって俺たち部員にばかり気を取られて、昨日倒れたのは誰だったかな?」

『うっ…それは……わ、私、です…』

「だよな。だからほら、これを飲みなさい」


少し強引に手渡されたペットボトル。ひんやり冷えていて美味しそうだ。本当に貰ってもいいのだろうか。迷いながらもう一度大地さんを見ると、ニッと歯を見せて笑った大地さんが大きく頷いた。
ほんと、皆心配性で優しすぎる。
「ありがとうございます」とお礼を言って、早速それで喉を潤すと、思っていたより喉が渇いていたのか、一口で4分の一は飲んでしまった。


『…おいしい、です』

「それなら良かった。ちゃんと水分とれよ?苗字は倒れたんだから、出来れば水道水じゃなくてソッチな」

『はい』


頷いてもう一度口をつけると、大地さんが満足そうに笑ったのが見えた。本当に優しいなあ。
スガさんといい大地さんといい旭さんといい、3年生は優しさで出来ているんじゃないだろうか。なんて考えて、少し笑うと、不思議そうに首を傾げられた。


「?どうした?」

『いえ、その…優しいなあ、と思って…』

「そりゃ、可愛い後輩には優しくしたくなるさ」

『…私、烏野に入って良かったです』

「ど、どうした?急にそんな」

『だって、烏野の入らなきゃ大地さんの可愛い後輩にはなれなかったわけじゃないですか。だから、大地さんの後輩になれて、良かったなって』


「うちの主将は日本一ですね」と冗談混じりで笑うと、「茶化すなよ」と言いつつも、大地さんはほんの少し照れたように頬を掻いた。


「よし、それじゃ戻るか」

『はい』


体育館へ踵を返した大地さん。
その背中を目にすると、ペットボトルをにぎる手にほんの少し力が入った。
ああ、やっぱり。大地さんの背中が広く見えるのは、彼の器が大きいからだ。

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