75話 マネちゃんズ の 恋バナ
合宿4日目。東京は今日も変わらず暑いなあ。
昼休憩になってますます和らぐことない暑さに、傷む頭を押さえてはあっと息をはくと、一緒にご飯を食べていたマネージャーさんたちに「大丈夫?」と心配されてしまった。
『あ、大丈夫です。まだこの暑さに体が慣れてなくて…』
「あー東北は夏でも涼しそうだもんねー」
「東京よりは涼しいかな」
潔子さんの言葉にへえっと相槌を打つマネさんたちの姿を見ながら、箸を進めていると、「指は大丈夫ですか?」と仁花ちゃんが心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫だよ」と指を示して笑ってみせると、何かを思い出したように潔子さんが口の開いた。
「菅原に手当てしてもらってたよね?」
『あ、はい』
「でも、そのあと月島が菅原を呼びに行って、戻ってきたとき、名前、顔赤くなかった?」
『!?そ、そそそそそんなことないですよ!?』
「え?なになに!?なにその楽しそうな話!!!」
「詳しく詳しく!」と身を乗り出して食いついてきたかおりさん。勘弁して欲しい…。
サッと視線を下げて誤魔化そうとしたけれど、「何があったの?」と愉しそうに聞いてくる潔子さんに詰め寄られる。うう、こんなときでも潔子さんってば綺麗なんだから。
「な、何も」「嘘、顔赤い」「そんなこと…」「ある」「う……」
俯かせていた顔をあげて潔子さんを見ると、何処と無く目が輝いていた。
「何があったの?」
『え、いや、その…えーっと…』
どうしよう。食堂だという事もあり、チラリと周囲を目を向ければ、なんとなく皆の視線を集めている気がした。ああ、今すぐ逃げたいです…。
『…あの、この話はせめて寝る前にでも…』
「…じゃあ、昨日の夜、巻き直した包帯は誰にしてもらったの?」
『へ!?』
潔子さん、なんでそんなに目敏いんですか。
「巻き直してあげようと思ったら、もう直してあったから」そう言って指に視線を向ける潔子さんに、思わず手を隠してしまった。
…なんだか、ドクドクと血の流れまで早くなってる気がする。
『あ、赤葦くんに…』
「「赤葦!?」」
声が大きいですかおりさん、雪絵さん!!
あああああ、と頭を抱えると、今度はニヤニヤした顔の2人に詰め寄られる。美人さんに囲まれるのは嬉しいけど、この状況はちよっと泣きたい。
離れた席に座っていたはずの鉄朗や赤葦くんに月島くんまでこちらを向いているのは気のせいであって欲しい。
「なんで赤葦!?どうして赤葦!?」
「夜ってどのタイミング??2人きり??」
『お、お風呂あがりに…たまたま巻き直してる所に赤葦くんがきて…』
「2人きり??」
『しょ、食堂で、他に誰もいなかったので…』
「マジ!!??何かあった???」
『な、何かって、』
何かって、そんな。
チュッと聞こえたリップ音。額に感じた柔らかさは夢なんかではなかった。
自然と高くなる体温を下げることなんてできるはずはなく、赤いであろう頬を隠すために俯くと、雪絵さんに肩を掴まれた。ああ、もう熱い。
「なになに〜?お姉さん聞きたいな〜」
『な、何もないです!』
「でもでも、昨日も言ったけど、事故とはいえ赤葦とはあんなことあったわけだし」
『そ、あ、あれはっ「マネちゃんたちさ」っ!?』
「ちょーっとコイツいじめ過ぎ」
ポンと叩かれた肩に座ったまま上を見ると、ニコリと笑った鉄朗がいた。あ、これ作り笑いだ。
目を丸くして鉄朗を見ていると、ふっと笑った鉄朗の手が今度は頭の上に乗せられた。
「黒尾くん過保護だねー」
「でも、私たちとしてはうちの赤葦と名前ちゃんがくっついてくれたら、凄く面白いし」
「赤葦やツッキーが、コイツに何したのかは知らないけど…俺は、譲るつもりねえんで」
「な、」だなんて、私に言わないでよ。
顔が、熱い。さっきの比じゃない。
そういえば、エコで食堂のクーラー切ってるんだっけ。さっきから顔が熱くて仕方ない。
ああ、もう、なんだこれ。
なんだか頭までぼんやりして、瞼まで重い。
『(…あれ?)』
「!?お、おい!」
これ、恥ずかしさからくる熱じゃないの?
気づくと、視界は真っ暗になってしまっていた。
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