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74話 赤葦 と 包帯


『いたた……やっぱ参加しない方が良かったかな…』


鉄朗たちの自主練に参加した夜。
練習を終えて夕食をとり、お風呂にも入った私は、誰もいなくなった食堂で指の包帯を巻き直していた。
久しぶりにしたバレーは楽しかったけれど、怪我をした指でしない方が良かったかな。
なかなか上手く巻けずに包帯と格闘していると、「苗字?」と首にタオルをかけた赤葦くんが入ってきた。


『あ、こんばんは、赤葦くん。さっきはありがとね、楽しかった!』

「いや、それはいいんだけど…それって…」

『え?あ、ああ、これ?実は西瓜切るときに、誤って指までザックリ』

「え……指までって…それでバレーしたの?」


苦笑いで頷き返すと、呆れた顔をした赤葦くんが隣の席を引いて腰掛けた。
あれ?と彼を見ると、巻きかけの包帯を丁寧に解かれた。


『え、あ、あの…』

「1人じゃ巻きづらいだろ?俺がやるよ」

『え、いや、でも……』

「それじゃあ苗字が巻き終わるまでここで見てるけど?」

『…お、お願い、します』


赤葦くんの言葉にうっと言葉を詰まらせて、渋々包帯を差し出すと、クスリと笑った彼は満足そうに受け取ってくれた。
やっぱりカッコイイなあ。そういえば、前の合宿でもこうして2人で話したっんだっけ。
ゆっくりと綺麗に巻かれる包帯を見ながらぼんやりしていると、「苗字さ、」と不意に声をかけられた。「え、あ、はい」驚いて少し声を上擦らせると、キョトンとした後、すぐに笑われてしまった。恥ずかしい。


『お、驚いたんだよ…笑わないで…』

「っごめんごめん。…あのさ苗字、この指でバレーするのは良くないと思うよ」

『…うん…だよね…』

「平気そうな顔してたから、俺も黒尾さんだって気づかなかったけど…周りが気づかなくても、苗字が自分自身のこと大事にしないと、きっと傷つくよ」

『…確かに、鉄朗は怒りそう』


容易に想像できる姿に声を出して笑ってしまうと、「はい、終わり」と包帯を巻き終えた指が解放された。「ありがとう」と笑って赤葦くんを見れば、緩く笑んだ彼がいて、そんな彼の唇の隣が、不自然に赤くなっているのが目に入った。
やっぱり、まだ切れてる。


『…痛い?』

「え?」

『えっと…その、唇…切れたとこ』

「あ…いや、特に。飯食うときにちょっと気になるくらい」

『あ、それ分かるかも』


「ピリッとするよね」と笑いながら切れた口の端を指すと、申し訳なさそうに眉を下げた赤葦くんの手にゆっくりと頬を覆われた。
「…痛い?」「ううん、私も大丈夫」
フルフルと首をふって笑って見せたけれど、それでも赤葦くんは眉を下げたまま、頬を離してくれなかった。


「…傷も…それに、その…キスも、ごめん」

『い、いいよ!全然気にしてないし!事故だからしょうがないよ!』

「…あの後…」

『え?』

「あの後、黒尾さんとは何か、あったの?」


あの後、鉄朗と。
そう聞かれた瞬間、意識しなくても頭の中で勝手に鉄朗の顔が浮かんできた。

“…悪い…先、謝っとくわ”

聞こえないはずの鉄朗の声が響く。
どうしよう、顔が、熱い。


「…苗字は、嘘がつけないんだね」

『!?な、いや、そ、んなことは…』

「……でも、“全然気にしてない”は…ちょっと、不本意かな」


不本意?何が、と聞こうとすると、額から、リップ音が。え…え?
ポカンとした顔で赤葦を見ると、ふっと不敵に笑った彼と目が合った。


『え…え、え、え!?い、今の、なに!?なんで!?』

「…なんでかな」

『あ、赤葦くん!?』


クスっと笑うとヒラヒラ手を振って出て行ってしまった赤葦くん。
月島くんといい赤葦くんといい…。


『いったいなんなの…?』

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