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73話 3 対 3


月島くんが変わった。もちろんいい意味で。
合宿3日目の梟谷戦で、月島くんは言った。

“止めなくてもいいんですか?”

月島くんの言葉を聞いた瞬間、自分の中でブワッと何か熱いものがこみ上げてきた。これは、鉄朗たちにお礼を言わなくてはいけないな。
試合が進む中、どこかいつもより瞳を明るくさせてアップゾーンにいる月島くんに顔を綻ばせていると、不意に日向くんの怒声が響いた。


「今、手ェ抜いたな!!?」


聞こえてきた声に驚き、目を丸くしてコートの中を見る。

どうやら、今影山くんがあげたトスは、新しい速攻の“落ちてくるトス”ではなかったらしい。
「止めんな影山!」と影山くんに向かって叫ぶ日向くん。その言葉の裏に隠れた真意を読み取ることが、影山くんにはできただろうか。

お前ならできる、だから、止めるな、と。

中断した試合が再び再開するとき、チラリと影山くんの表情を見ると、迷いのなく、真っ直ぐ前を見つめる彼がいて、小さく笑ってしまった。











『こんばんはー!』

「お!ツッキーに苗字ちゃん!」


練習後、月島くんと2人で第三体育館を訪れると、「おーっす!」と木兎さんが出迎えてくれた。気さくな人だなあ。
ペコっと頭を下げて返すと、「お?」と木兎さんが何かに気づいたように私たちの後ろを見た。


「今日は仲間連れか?」

「?はい?」

『?』


木兎さんの視線の先を追えば、体育館の入口でヒョッコリ顔をだす日向くんが。あれ?影山くんも練習していたのでは?
「相棒はどうしたのさ?」私の代わりに尋ねる月島くんに日向くんは影山くんとは別々で練習することになり、研磨くんには逃げられたと答えた。研磨くん、相変わらずだなあ。
苦笑いをこぼして、日向くんから逃げる研磨くんの様子を思い浮かべていると、一歩踏み出した日向くんの後ろから誰かが走ってくるのに気づく。


「「俺も入れて下さいっ!!」」

『あれ?リエーフくん??』


走ってきたのはリエーフくんだった。
どうやら夜久さんのレシーブ練から逃げてきたようだ。目がすごく泳いでる。
1通り集まった顔ぶれを見た鉄朗は愉しそうにニヤリと笑った。


「それじゃあ、人数丁度いいからー…3対3、やろうぜ」


鉄朗の言葉で決まったミニゲーム。
チーム分けをしながら「名前は点数つけな」と言う鉄朗にしたがって点数板の横に立つことにした。
いや、でも、これは…。


「すげえバランス悪くないスか…」

『…あはは…確かに…』


身長差を考えると、赤葦くんの言う通りかなりバランスが悪い。昼間やれないことをしよう、という鉄朗の言葉に、そのままゲームを始めると、案の定というべきか、1セット目はネコチームが先取。
セット間毎に挟む少し休憩の間に、汗を拭いながら鉄朗が歩いてきた。


『ねえ、これ少し不公平じゃない?』

「んー?そうかー?」

『小さいものイジメじゃん』

「いや、チビちゃんはともかく、木兎や赤葦は小さくないだろ」


…確かに。2人は180超える長身だった。
でも、鉄朗と月島くんは180後半。リエーフくんは190cm越え。3人並ぶだけでまさに壁だ。
やっぱり少しズルイような。
そんな顔をして鉄朗を見ると、何かを思いついた顔をした鉄朗が「それじゃあ」と口を開く。


「お前、フクロウチーム助っ人な」

『え!?』

「「は!?」」

「え、なになに?苗字ちゃん経験者??」

『え??えっと…まあ、い、一応…』


鉄朗の言葉に「おお!」と目を輝かせた木兎さん。ちょっと待って。いくらなんでもそれは無理がある。私が入った所で邪魔になるだけではないだろうか。
慌てて鉄朗を見上げると、柔らかく笑んだ鉄朗がいて、目を丸くする。
なんでそんな顔してるの、と喉から出てきそうな言葉を飲み込むと、鉄朗の大きな手が頭の上に乗せられた。


「いいじゃねえか、レシーバーなら少しくらい平気だろ?」

『…で、でも、私が入ったら邪魔になるんじゃ』

「木兎ー!名前が入ってもいいよな?」

「おうよ!俺の活躍を近くで目に焼き付けてやるぜ!!」


「ヘイヘイヘーイ」両手を掲げて騒ぐ木兎さんに、「諦めた方がいいよ」と赤葦が小さくため息をついた。
いや、でも、だって。
断ろうと口を開いたけれど、何を言おうか迷ってしまい、再び閉じてしまう。見かねた鉄朗は、そんな私に苦笑いをこぼした。


「バレー、したいかしたくねえのか。それだけだよ」

『…そういう聞き方されたら、“したい”って言うしかないよ』


諦めてはあっと息をはくと、満足した笑顔を浮かべた鉄朗に背中を押された。
「よろしくお願いします」とフクロウチームに加わると、日向くんと木兎さんにハイタッチを求められた。
「オッシャー!!今度こそネコを倒すぞ!」「…苗字、サーブ頼める」「あ、うん。分かった」「赤葦偶にはノッテてば!」
渡されたボールを持ったエンドラインまで下がる。たまに練習の手伝いで打ったりするけれど、こういう感じは久しぶりだ。
手のひらへのミートを確かめるようにボールを数回床に打つと、懐かしさからほんの少し頬が緩んだ。


「っしゃ、サッこーい!」

「苗字ちゃんナイサー!!」


鉄朗と木兎さんの声を耳にしてから、ふうっと息をはく。
ただのフローターサーブじゃ、なんだかつまらない。久しぶりだけど出来るだろうか。
両手でボールを投げて、昔の感覚を思い出すように踏み切る。
打った瞬間に手のひらに感じたボールの重み。あ、これ、入る。


「「「「「「(ジャンプフローター!?)」」」」」」

「うお!?」

「あ!リエーフてめえ!何ミスってんだよ!!」

「す、すみません!でも、まさかジャンフロで来るとは思ってなくて…!」

『やったー!!サービスエース!!』


わーい!と少し大袈裟に喜ぶと「ナイスサーブだ!!!」と木兎さんとハイタッチ。同様に、駆け寄ってきた日向くんとまハイタッチをすれば、次はもちろん。


『赤葦くん、』

「…ナイスサーブ」

『えへへ』


パチンと交わした赤葦くんとのハイタッチ。
そのときに向けられた笑みは、まるで、さっきの鉄朗のように優しいもので、ちょっとだけドキッとした。

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