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70話 菅原 と 手当て


合宿2日目。昨日同様に勝ち数は0だ。
坂道ダッシュをする背中を見ながら、額に浮かんだ汗を拭っていると、森然高校のマネージャーさんに声をかけられた。


「あ!名前ちゃん、潔子ちゃん、仁花ちゃん!ちょっといいかな?」

「?どうしたの?」

「実は、さっきのうちの父兄さんから差し入れでスイカが届いたんだ!切るの手伝ってもらっていいかな?」


「お願い!」と手を合わせてくる彼女にもちろんと頷き返すと嬉しそうな笑顔が返ってきた。うーん、やっぱりここのマネージャーのレベル高いな。眼福だ。
3人とも行くのはあれなので、残ると言ってくれた仁花ちゃんに後を頼んで森然のマネさんについていくと、食堂のキッチンには、既に梟谷のマネさん2人がいた。


「おー!来たきた!」

「よし、それじゃあさっそくやっちゃおうか」

『はい!』


サクサクと大きくて美味しそうなスイカを切っていると、「そういえばさ、」と梟谷マネさんの1人、雀田さんが愉しそうに声をあげた。


「名前ちゃん、黒尾くんと付き合ってるの?」

『…ええ!?ち、違いますよ!!て、鉄朗はただの従兄弟です!』

「えー、じゃあ他に彼氏いる?」

『…い、いませんけど…?』

「本当!?じゃあじゃあ、うちの赤葦とかどう??」

『…赤葦くんですか?』


思ってもみない相手の名前が出てきて、つい手を止めて聞き返すと雀田さんは大きく頷いて返してきた。
どうして彼の名前が?と首を傾げていると、そんな私に答えるように、今度は白福さんがニッコリ笑んでみせた。


「事故とはいえ、もうキスもしちゃってるしねー」

『っ!?!?いっ!!』

「!?名前!?」


白福さんの言葉につい動揺して、手元を狂わせてしまった。痛んだ左手を見ると、人差し指に赤い血が流れていて、ため息をついてしまう。やっちゃったよ。
なんでか逆に冷静にポタポタ落ちる血を見ていると、慌てた様子の潔子さんに「大丈夫!?」と顔を覗き込まれた。こんなときでも、潔子さんが美しい。
「ご、ごめんね!?」「え?」「わ、私がからかったりしたから…」「いえ!これは自分の責任ですよ!?」「でも…」「全然大丈夫ですから!気にしないで下さい!」
申し訳なさそうにする梟谷の2人に、怪我をしていない右手をヒラヒラふって大丈夫だとアピールしてみせたけれど、2人の眉は下がったままだ。なんだか、逆に申し訳ないな。
とりあえず手当をしようと、キッチンから出ようとすると、「あれ?名前?」そこにスガさんが現れた。


「!?そ、それ血じゃないか!?」

『え、あ、…はい。ちょっとドジっちゃって…』

「笑ってる場合じゃないだろ!?ほら!手当するべ!」

『え?あ、ちょ、スガさん!?』


グイグイ腕を引くスガさんに驚きながら、不意に潔子さんを見ると「いってらっしゃい」と何処が微笑ましそうに手をふられた。









「うわあ…結構ザックリいっちゃってるな…」

『…すみません…』


スガさんに引っ張られて再び体育館の方へ戻ると、不思議そうな顔をしたコーチが「どうした?」と声をかけてきた。
そんなコーチに指をみせると、顔を青くしたコーチは「す、菅原!!手当てしてやれ!!」とスガさんに救急箱を押し付けていた。コーチ、血が苦手なのだろうか。
既にダッシュを終えて、体育館の中で走り回る皆を横目に、横口から外へ出ると、コンクリートの階段に腰掛けたスガさんは、「ほら!座った座った!」隣を叩いた。そこにおずおずと腰掛けて指を見せると、スガさんの眉間に思いっきり皺がよった。


「…痛いだろ?」

『…いえ、それがあんまり…』

「名前がこんな怪我するって珍しいなあ…なんかあった?」

『え!?…い、いえ…ちょっと、驚いた拍子に切っちゃっただけなんで…』


スガさんの問いかけに慌てて首をふっては見たものの、「…そっか」と返したスガさんはどこか納得していなさそうだ。気まずさから自分で手当てをしようとすると、「俺がやるよ」とやんわりスガさんに拒否されてしまった。


『…でも、スガさんも早く中に戻った方が…』

「コーチにも任されちゃったし、何より、怪我した名前を放っておけないよ」

『…スガさんて、優しいですよね』

「ん?…んー…まあ、そりゃ…名前は大事なマネージャーだしな」


手際よく救急箱の中から消毒液と脱脂綿を取り出してそう笑ったスガさんは、どこか複雑そうだった。何か、変なことを言ってしまっただろうか。
すみません、と謝ろうとすると、「それじゃ消毒するぞー」と先にスガさんに言われてしまい、口をひらくことが出来なかった。


『っいっ…!!』

「ごめんな?ちょっとだけ我慢な?」

『っは、はいっ…』


宣言通り消毒液で消毒された人差し指は、はっきり言ってかなり染みる。それはもう泣けるレベルで。
ジクジクと傷む傷口に、目尻に涙を浮かべると、スガさんが柔らかく頭を撫でてくれた。なんだか、綾されてる気分かも。
しっかりと消毒をしたあと、救急箱から大きめの絆創膏を出したスガさんはできるだけ傷に響かないように絆創膏を貼って、その上から包帯を巻いてくれた。


『…ほ、包帯はいいんじゃ…?』

「バイ菌が入ったら嫌だべ?」

『…でも、大げさに見えますよ』

「いいのいいの。それより、名前の指の方が大事」


器用に包帯を巻きながら、ニッと笑いかけてくるスガさんに、顔に熱が集まった気がした。
…そういえば、距離も近い。今更ながら照れてしまう。赤くなった顔を冷ますように首をふると、「何してんだ?」おかしそうに笑われてしまった。恥ずかしい…。


「うし!完了!」

『あ、ありがとうございます!』

「どういたしまして」


綺麗に巻かれた包帯を見てお礼を言うと、優しく微笑んだスガさんにまた頭を撫でれた。優しい先輩だなあ。嬉しくて、ふふっと笑うと、「?どした?」スガさんが少し目を丸くした。


『いえ、その…スガさんは優しいなあと思って』

「そうか?」

『はい!マネージャーになって良かったです、私』


ちょっとだけ、烏野に入ったばかりの自分を思い浮かべる。あのとき、バレー部に入って良かったな。なんて頬を緩めていると、頭の上に載せられていた手がゆっくりと降ろされた。
あれ、と思ってスガさんを見上げると、何かを堪えるように下唇を噛んだ彼がいて目を見開く。


『…スガさん…?』

「…さっきの、ちょっとだけ、嘘なんだ」

『え?』

「名前のこと、大事なマネージャーって本当に思ってる。…でも、俺にとって名前は…マネージャーじゃなくても、大事な…特別な、女の子だよ」

『…と、く…べつ…?』


白くて綺麗な、スガさんの手に頬を包まれる。
「ごめんな」と呟かれた言葉に、どうして謝るのか尋ねようとしたとき。

唇が塞がれてしまい、それは、かなわなかった。

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