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69話 山口 と 月島2


山口くんがサーブ練習に戻ってからしばらくすると、月島くんが戻ってきた。壁側においてあったサポーターを取った所を見ると、どうやら忘れていたらしい。
少しだけ皆の練習を見つめた彼は、どことなく苦しそうな表情で静かに呟いた。


「―たかが、部活だろ………どうせ、あとで苦しくなるんだろ」


出ていった背中がやけに小さく見えて、その後を追うと途中第3体育館まで走った所で足をとめる。
私が行っても、何も言ってあげることはできないじゃないか。
下唇を噛んで俯いていると、「苗字?」不思議そうにした鉄朗の声がふってきた。


「お前、アッチの体育館にいたんじゃ…?」

『あ、えっと…月島くん追っかけてて…』

「…月島って……あのメガネくん、だよな…?」


気まずそうに聞いてくる鉄朗に「そうだけど」と頷くと、ポリポリ頬を掻いた鉄朗が、小さく息をはいた。


「あー…悪い。もしかして、怒ってた?」

『え?…さあ、話しかけられなかったから分かんないけど…』

「おーい!黒尾!サボってないでブロック…ってあれ?苗字ちゃん?」


ひょこっと鉄朗の後ろから顔を出してきて木兎さん。そんな彼に続いて赤葦くんも現れたので、ちょっとドキッとした。
彼の唇の傷を見ると昼間のことを思い出してしまう。平静を装って「こんばんは」と2人に挨拶すると、赤葦くんは丁寧に「こんばんは」と返してくれて、ホットした。


「あ、もしかしてメガネくんを怒らせたのバレて怒られてんじゃねえの?」

『別に怒っては…でも、確かに月島くん、ちょっと様子が可笑しかったような…鉄朗、一体何言ったの?』

「“チビちゃんに負けちゃうよ”って挑発して、のってもらおうと思ったんだけど…メガネくんの反応が思ってたのと違ってな」

『日向くんに負けちゃう…』


月島くんは、それをどんな風に受け取ったのか。
彼が時々、日向くんを羨望するように見ているのは気づいていた。でも、その視線の奥にある感情まで読み取ることなんてできる筈はないし、まして本人に聞く勇気なんてなかった。
考え込むように、先ほど月島くんが歩いて行った廊下の奥を見つめていると、「意外だな」と鉄朗が一言呟いた。


『え、何が?』

「お前、あーゆータイプ見たら、ぶつかって行きそうじゃん。ほっとけないっつって」

『…確かに、月島くんは色々と心配だけど…彼の悩みを、私が理解することはできないから』

「?なんでだよ?」

『だって、私は、バレーが出来なくなった人間だから』


渡り廊下のコンクリートに向かって零した言葉に、鉄朗たちが固まるのがわかった。これじゃあまるで自虐ネタだ。そう内心笑ってから顔をあげると、空に浮かんだ月が目に入った。


『出来なくなった人間に出来る人の悩みは分からない。きっと月島くんには、バレーボールを続けているからこその悩みがあるんだと思う』

「…それで大人しくしてんの?」

『うん、それもある。でも、それだけじゃなくて…月島くんのことを1番分かってるのは、私じゃないから』


そう、そうなのだ。月島くんには、私なんかよりももっといい理解者がいる。
ずっと彼の傍にいて、きっとその苦しみを知っているであろう、大切な幼馴染みがいる。本人たちは気づいていないかもしれないけど。
柔らかく輝く月に向かって微笑んでみせると、鉄朗の大きな手が頭の上にのせられた。


「優秀なマネージャーだなあ」

『それ関係なくない?』

「選手のことを、よく見てるってことじゃねえか」


「いいマネージャーだよ、お前は」そう目尻を下げて微笑んだ鉄朗に、頬がほんの赤くなるのが分かる。なんだか、心臓がうるさい。
「ありがとう」と小声で返すと、鉄朗は更に頬を緩めた。


「ま、もし俺に出来ることがあれば、やってやるよ。あのメガネくん怒らせた責任もあるしな」

「おっ!だったら俺も俺も!メガネくんを励ましてやろうぜ!」

「いえ、木兎さん、絶対変に声かけないで下さい。余計に拗れますから」


3人の会話を聞きながら、もう一度廊下の奥を見つめ直す。
月島くん、早く気づいてね。君のそばには、山口くんがいるってことに。

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