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68話 山口 と 月島


鉄朗と二人で戻ってくると物凄く申し訳なさそうな表情をした赤葦くんが謝ってきた。それに気にしなくて大丈夫と首をふりつつまた赤くなる頬っぺたに気づかないふりをしていると、木兎さんの悲鳴に近い叫び声が聞こえてきた。
犯人は言わずもがな鉄朗だろう。慌ててそれを止めに入ろうとしたけれど雀田さんと白福さんの二人が「自業自得だからほっとこう」と体育館へ引っ張られてしまった。木兎さんが無事でありますように。

それから体育館へ行ってもう午後の準備を始めている烏野の皆が待機している、一番端のコートへ走りよっていくと、こっちに気づいた田中がクワッと目を見開いた。


「な、お、おまっ…ぶ、無事か!?何もされてねえのか!?」

『?なんのこと?』

「惚けんな!!音駒の主将とは前科があんだろ!!」


前科?田中の言葉の意味が理解できずに首を傾げていると、「そうだそうだ!」とノヤまで詰め寄ってきた。前科ってなんのこと?
訳が分からず3年生に助けを求めようとすると、その船を出してくれたのは苦笑いをこぼす縁下だった。


「ほら、GWの練習試合の後苗字、音駒の主将さんと、その…いろいろあっただろ?」

『いろいろ………あ、』


少し言葉を濁された言葉に思い出すのはあのごみ捨て場の決戦のあとでのこと。そういえば、あのときもこんな風に詰め寄られていた気がする。
どうなんだ!と言わんばかりに眼光を鋭くして見てくる田中とノヤからサッと視線をそらすと、凄い勢いだった二人が急に動きをとめた。え、なに、どうしたの。そらした視線を戻してみると絶望を絵にかいたような顔をして二人が固まっていた。


「や、やっぱり…」

『え?』

「やっぱり…何か疚しいことがあったんだろおおおおおおおお!?」

『はあ!?な、何でそうなるのよ!』

「だってお前目そらしたじゃねえか!!」

『そ、それは…』


うおおおおおお!とかぐあああああ!とか、とにかく叫ぶ二人。とりあえずうるさい。他のチームの人たちがビックリしているじゃないか。我らがキャプテン、大地さんがそんな二人をもちろん放っておくはずもなく、二人はなんなく大地さんに捕まえられた。頭を鷲掴みにされて。
さすが大地さん。けど、今日は迫力が二倍増しに見えるのは気のせいだろうか。スガさんの後ろにも何か黒いものが見える気がする。
二人の雰囲気に圧倒されていると、それとは対照と言ってもいいくらい楽しそうに微笑んだ潔子さんに肩を叩かれた。その微笑みが眩しいです。


「準備、行こうか」

『え、あ、は、はい!でも、その…大地さんたちなんだか様子が変ですけど…?』

「いいのいいの。ほら、行くよ」


少し後ろ髪を引かれながら潔子さんと体育館をでると、慌てたように仁花ちゃんもそれに続いてきた。なんとなく後ろを振り返ってみると、なんともいえない顔をした月島くんと目があった気がした。











午後の練習試合が全て終わった頃には、日はすっかり沈んで空に星まで見えていた。結局、今日は全敗だったな。最後のセットを終えて坂道ダッシュから帰ってきた皆にストレッチをするように声をかけると、あがろうとした月島くんが山口くんに声をかけられていた。


「…ツッキーは、何か…自主練とかしないのかなと思って…」

「練習なんて嫌って程やってるじゃん。ガムシャラにやればいいってモンじゃないでしょ」

「そ、そうだね…。……そう、なんだけどさ…」


歩いて行ってしまった月島くん。多分、彼には山口くんの寂しそうな表情も声も届いてはいないのだろう。
ソッと山口くんの肩を叩くと、ビクッと肩を揺らした山口くんが恐る恐る振り向いた。


『ごめん、驚かせちゃったね』

「い、いえ!…あの、苗字先輩は、今のツッキーをどう思いますか?」

『月島くん?……私には、言えることはないかなあ』

「で、でもっ!ツッキーは先輩が言うことならきっと…!」

『それは、私の役目じゃないよ』


眉を下げて笑ってそう言うと、山口くんの目が何処か不安そうに揺れた。
違うよ山口くん。それは、わたしがするべきことじゃないんだよ。
何も言わない彼を見つめていると、視線を下げた山口くんは小さな声で「すみません」と謝ってきた。それに首をふった所で、山口くんは東峰に呼ばれてサーブ練習へと走っていった。

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