夢小説 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
67話 黒尾 と 唇


※捏造入ります。


唇に感じる柔らかな感触。

赤葦くんと、キスをしてる。

すぐ近くで交わった視線に目を丸くするとハッとした顔をした赤葦くんが慌てたように上から退いた。
それに続いて自分も体を起こすとピリッとした痛みが唇の端にはしった。あれ。気になってそこを触ると、中指の先に血がついていた。唇を切ってしまったのか。
ぼんやりしたまま立ち上がった赤葦くんを見上げると彼の唇の端も少し赤くなっていた。


「っごめん、苗字…!!」

『…えっ…あ、いや……わ、私こそ…』


頭を下げてきた赤葦くん。それに慌てて首をふりながら「顔をあげて!」赤葦くんに言うとゆっくりと上げられた顔がほんのり赤くなっているのに気づい。あ、やっぱり。私、赤葦くんとキスしちゃったんだ。
キス、というよりはただ唇がぶつかっただけなのだけれど、それでもだんだんと自分の顔も赤葦くんのように赤くなるのが分かる。
気まずさから互いに視線を合わせられずにいると、周りがやけに静かなことに気づいた。


「あ、あ、あ、赤葦が、赤葦が苗字ちゃんとチューっ「誰のせいだと思ってんですか!!」いて!」


沈黙を破った木兎さんの言葉に赤葦くんが声をあげると、近くにいたマネージャーの雀田さんが無言で木兎さんの頭を叩いた。駄目だ、気まずい。
どうにかしようと口を開こうとしたとき、グイッと腕が引かれる。


「…行くぞ」

『え?ちょ、て、鉄朗!?』


腕を引いた犯人は鉄朗でそのまま食堂から連れ出されてしまった。あの雰囲気をすべて赤葦くんに丸投げしたようで、なんだか申し訳ない。
「どこに行くの?」と声をかけても何も言わない鉄朗に諦めてついていくと、校舎の方に入ってすぐに鉄朗がようやく足を止めた。
有無を言わせない様子にへの字に閉じられた唇。怒っているのか。何て言うべきか迷っていると、トンと背中を壁に押し付けられた。


「…悪い…先、謝っとくわ」

『え……っん、』


低い声で呟かれた言葉に小さく疑問を吐き出してすぐ、鉄朗の唇が噛みつくように私の唇に被さった。一瞬何が起こっているのか分からずにいると、先ほど切った唇の端に痛みがはしって顔を歪めてしまった。


『いっ…』

「…赤葦の野郎…こんなもんまで残しやがって…」


チッとイラついたように舌打ちをしたあと、今度は切れたキズに吸い付かれた。その痛みに涙を溢すと、鉄朗の指が涙を拭う。
以前キスをされたときとは違う優しい手つきに、なんだか無償に恥ずかしくなっているとようやく鉄朗が唇を離してくれた。


『っな、なな何して!!』

「あ?消毒だよ消毒。たくっ…赤葦のヤツ…いや、木兎か?アイツらマジで殺す…」


なんてことのないように話す鉄朗。
なんだ、恥ずかしいのは私だけですか。手の甲で唇を押さえてうつむくと、それをどう取ったのか鉄朗の手がソッと髪を撫でてきた。


「…怒ってんの?」

『怒ってる…というより、その…恥ずかしいというか…』

「…ほー…」


うつむかせていて見えないけれど、きっと今鉄朗はニヤニヤと意地悪く笑っているに違いない。なんだか悔しくなって鉄朗の足を軽く踏んづけようとすると、軽々と避けられてしまった。悔しい。
とにかく戻ろうとおそらく赤い顔のまま鉄朗の脇をすり抜けると、「ちょっと待て」とまた腕を捕まえられた。
「どこ行く気だよ?」「赤葦くんに謝りに行くの」「さっきも謝ってたじゃねえか」「あれじゃ足りない」
キッと少し睨むように引き留めてくる鉄朗を見ると呆れたようにため息をつかれた。


「…謝るねえ…つーか怒っていいだろ。赤葦と…あと木兎も」

『怒るって…だってわざとじゃないわけだし…』

「もし意図的だったら?」

『そんな…鉄朗や二口くんじゃあるまいし』

「フタクチ?」


鉄朗の口から出てきた名前にサアッと顔から血の気が引いていく。しまった。何やっているんだろう私。慌ててなんでもないと言おうとすると、それよりも早く鉄朗が腰を捕らえてきた。


「どういうことかな名前チャン?フタクチっていうのは一体誰のことですかね?」

『いや…えっと……』

「さっきの流れだと“お前にキスしたフタクチくん”って認識になるんですけど?」


…一応、間違ってはいない。視線をウロウロと迷わせながは黙っていると、鉄朗の大きなため息が聞こえてきて肩を揺らす。今度こそ、怒ってしまっただろうか。
おそるおそるさ迷わせていた視線を鉄朗に合わせるとあきれた顔をしていた従兄弟にちょっとだけ拍子抜けしてしまった。


「…どうせ、お前がボーッとしてたら相手が勝手にしてきたんだろ」

『え…っと…まあ…』

「たくっ。……その、フタクチってヤツにも、好きだって言われたのか?」


少し眉を寄せた鉄朗の言葉に、いつかの二口くんの台詞が頭を過った。

“したくなったからって誰にでもこんな事したりしないし”

直接は“好き”とは言われていないけれど、アレはそういう意味ではないのだろうか。少し首を捻って考えていると鉄朗がまたため息をついてきた。


「あーいいいい、この鈍感め。今のでなんとなく分かったよ」

『え、分かったの?』

「なんとなくな。ほんのすこーしだけ、そのフタクチくんってやつに同情するよ」


苦笑いをこぼす鉄朗に「なにそれ」と尋ねてみたけれど、答えの代わりに乱暴に髪を撫でられてしまった。一体なんなんだろうか。ちょっと不満に思いながら鉄朗を見つめていると柔らかく細まった目が再び近づいてきた。


「そのフタクチくんの分も、これでチャラにしてやるよ」


そう囁かれたあともう一度重ねられた唇が、なんだかやけに優しかった気がした。

prev next





00290