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66話 赤葦 と 事故


二度目の東京遠征。
滑り出しは順調!!というわけにも行かず昼休憩に入るまでの間、見事に全敗。でも、それでいいんだと思う。
勝つことも大事だけど、今はこの“練習”試合の中で皆の武器を磨くことが一番重要なのだから。

森然高校の坂を駆け上がって降りてきた皆にタオルを渡していると、最後におりてきた月島くんがやけに汗を掻いているのに気づいた。


『月島くんお疲れさま。これタオルとドリンクね』

「タオルだけでいいです」

『ダメだよ。ちゃんとドリンクも飲んで』


「飲むまで見てるよ」半ば押し付けるようにドリンクを渡すと、諦めたように息をはいた月島くんはちゃんとドリンクを飲んでくれた。


『暑いね、さすがに。ちゃんとこまめに水分補給してね』

「…はい」

『あとお昼もちゃんと食べるんだよ』

「分かってます。子供じゃないんですから」


それもそうか。
「ごめんごめん」と謝ってみせると、どこか呆れたようにため息をはいた月島くんはそのまま体育館の中へ。そんな彼を追うようにして中へ入ると、不意に鉄朗と目があった。


『そっちの試合も終わったの?』

「おう、ペナルティ回避な」


自慢ですか。ムッと唇を突き出すとケラケラと笑った鉄朗が長い腕を伸ばしてきた。何のつもりかと不機嫌な顔のまま見つめていると。

フニッ


『っ!?』

「アヒルかよ」


柔らかな感触を尖らせた唇に感じた。
それが鉄朗の指だと分かると、みるみるうちに顔に熱が集まってきた。唇を触るだなんて。驚き半分恥ずかしさ半分で鉄朗を見上げると、ニヤリと笑った唇が耳元に寄せられた。


「あんま突き出してっと噛みつくぞ」

『っ、わ、分かったから離れて!!』


グッと鉄朗の顔を押し返すと、それでも鉄朗は笑っていた。からかうのも大概にしてほしい。早く昼食を食べに行こうとしたとき、赤葦くんと目があった気がした。










『赤葦くん、』

「苗字…?どうかした?」


マネージャーさんたちとの楽しいランチタイムを終えて空になった食器を片付けると、トレイを持って立ち上がってきた赤葦くんを見つけた。
そういえば、さっきのはなんだったんだろう。気になって彼に話しかけると、赤葦くんが不思議そうに首を傾げてきた。


『午前の終わりに目があった気がして…もしかして何か用事があったのかなって』

「…ああ、あれは…」


トレイを持ったままの赤葦くんと向き合って話を聞こうとしたとき、「赤葦ー!!」彼の後ろから現れた木兎さんが勢いよく彼の背中を叩いた。いや、叩いたというよりは押したという方が正しいかもしれない。
全国区のエースのパワーに押された赤葦くんはもちろん体を此方へと傾けてきた。


「うわっ!?」

『きゃ!?』


細身とはいえ赤葦くんは180pを越えている。そんな彼を支えることができるはずもなく赤葦くんと一緒に後ろへ倒れ込んでしまった。
ガシャン!と赤葦くんの持っていたトレイやお皿が落ちる音と背中への衝撃に目を瞑る。打った痛みでほんの少しだけ目尻に涙が浮かんでしまった。
ゆっくりと瞼を開こうとしたとき。


『(っえ…?)』


さっき鉄朗の指に押されたときのような柔らかさ、でもどこか違う感触が唇に感じられた。
これは。
一瞬脳裏を過ったのは二口くんと鉄朗の顔。
ゆっくりと瞼を開けると、すぐそばに赤葦くんの綺麗な顔があった。

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