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64話 赤葦 と 電話


「夏休みだー!!」


気のせいだろうか。
田中の叫び声が聞こえた気がする。


「?どうしかした?名前??」

『あ、いえ。これで最後ですよね』


手の動きをとめた私に不思議そうに首を傾げた潔子さんに首をふって、最後のおにぎりを完成させる。
よし、できた。
ズラリと並ぶおにぎりに頷いてから、ご飯粒だらけの手を洗っているとふいにポケットの中の携帯が震えた。
慌てて手を拭いて携帯をとると、スピーカーから柔らかい声がした。


〈もしもし、今大丈夫?〉

『あ、赤葦くん、大丈夫だよ。どうしたの?』


電話の相手はなんと赤葦くんだった。
前回の遠征の帰り際、赤葦くんと連絡先を交換したけれど電話がきたのは初だ。
電話越しに首を傾げていると、何故か隣で潔子さんと仁花ちゃんが目を丸くしていた。


〈苗字に、ちょっと頼みがあるんだけど…〉

『?私に??何かな?』

〈…木兎さんに、苗字の連絡先、教えてもいいかな?〉


申し訳なさそうにそう尋ねてくる赤葦くんに「え?」思わず聞き返してしまった。
なんでも、たまたま私とのメールを木兎さんに見られたらしく、その後木兎さんが私の連絡先を知りたいと騒いでいるらしい。
はあっと最後にため息をついた赤葦くん。
なんだか随分とお疲れのようだ。


『私なんかのでよければ、全然構わないけど…』

〈けど、木兎さん物凄く下らないことでもメールしてきたりするけど…〉


経験者は語る、とはこのような感じだろうか。
小さく笑って「大丈夫だよ」と返すと「ありがとう」と赤葦くんがホッとしたように息をついた。


『赤葦くん、これから部活?』

〈ああ、うん、これからだよ。苗字は?〉

『私は自主練前のおにぎり作りしてた所かな』

〈ああ、じゃあ練習は終わったんだね〉

『うん、赤葦くん、練習頑張ってね』

〈ありがとう、それじゃあ…〉


赤葦くんに「またね」と返して電話を切ると、潔子さんも仁花ちゃんが目をキラキラと輝かせて迫ってきた。
「!?な、なんですか??」「…今の、梟谷のセッター?」「は、はい。そうですけど…」
潔子さんの質問の意図が分からず首を傾げながら頷くと、二人が愉しそうに笑う。
そんなに面白い話をしていたわけでもないのにな。
頭の上にハテナマークを浮かべていると「どこで知り合ったんですか??」と仁花ちゃんが興味深そうに聞いてきた。


『知り合ったのは遠征だよ?』

「どうやってですか!?」

『ど、どうやってって……あ、ボトルを運ぶの手伝ってくれたんだよね』


ちょっとだけ省いて話すと潔子さんは意地悪く、仁花ちゃんは嬉しそうに笑う。
そんな二人も好きだけど、やっぱりなんだかよく分からない。
うーん?と頭を捻っていると「苗字さんは顔が広いですね」と武ちゃんが微笑ましそうに言う。


『そうですか?偶々知り合いが多いだけだと思いますが…』

「その“偶々”がスゴいことだと僕は思いますよ。苗字さんのその偶然の出会いが、かけがえのないものへなっていくんですから」


さすがは国語の先生。
「そうなると、いいです」ちょっと照れ臭くて頬をかいてみせると武ちゃんも「そうですね」と頷いて返してくれた。

武ちゃんと目を合わせて笑っていると、「そろそろ行きましょう、先生、名前」と潔子さんがクスクス笑っていた。
慌ててできたおにぎりを持って体育館へ行くと、待ってましたとばかりにみんなが美味しそうにおにぎりを食べてくれる。

きっと、私がここに来て皆といることも偶然なのかもしれない。
だけど


『先生、私…もうかけがえのない出会い、見つけてました』


小さく呟いた言葉に先生は嬉しそうに微笑んだ。

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