57話 東京組 と 昼食
赤葦くんに女子部屋の前まで送ってもらって、薬を飲んでから食堂へ向かうと、「名前」鉄朗に手招きされた。
チラリと潔子さんを見ると、「行っておいで」と何故か楽しそうに言われたので、鉄朗のもとへ向かうと、側には研磨くんや赤葦くん、それに梟谷の大エースさんがいた。
「赤葦くん、さっきはありがとう」「いや、もう平気?」「うん」「ならよかった」というやり取りをしながら鉄朗の隣の席へ座ると、鉄朗が眉を寄せて此方を見た。なんで?
「…お前らいつ知り合いになったんだよ?」
『さっきちょっとね』
「…ふーん…」
目を細めた鉄朗。
なんだか、不機嫌そうだな。
困ったように「どうかしたの?」と聞くと、「別に」と返された。
別に、なんて思ってないくせに。
小さく息をはいたとき、「なあなあ!」と梟谷のエースさんが声をあげた。
「烏野のマネちゃん、黒尾とどういう関係??もしかして彼女??」
『いえ、鉄朗は従兄弟で…』
「へーっ!!だから、仲良いのかー!」
「…木兎さん、そろそろ自己紹介くらいしてあげて下さい」
「ん?おおっ!木兎光太郎な!よろしくー!!」
「ヘイヘイヘーイ!」と声をあげる木兎さん。
なんだか凄く元気な人だ。
「苗字名前です。よろしくお願いします」と頭を下げると、木兎さんが「おうっ」と手を出してきた。
多分、握手をしようということだと思う。
ニッコニコしている彼の手をにぎると、力強く握り返された。
「…おおっ…」
『?あ、あの…?』
「苗字ちゃんの手、小さいし柔らかくて、女子の手って感じだなあ!」
『え』
「なーんか触り心地い…いって!!」
悲鳴染みた声と共に離された手。
赤葦くんによって脇腹にチョップを喰らったのが随分痛かったのか、木兎さんは涙目だ。
「赤葦、オレ先輩!!あと、黒尾足踏むなよ!!」
あ、鉄朗からも攻撃されてたのか。
宙ぶらりんになった手を引っ込めながら、そんなことを考えていると、ふいに、鉄朗越しに座る研磨くんと目があった。
『久しぶり、研磨くん』
「うん、久しぶり」
目が合うと少し笑いかけてくれた研磨くん。
なんだか癒される。
相変わらず、まだバレーを楽しいと明確に言うことはできないみたいだけど、続けているということは嫌いではないと思う。
『なんだか懐かしいなぁ』
「?何が??」
『ほら、よく三人で公園でバレーしてたじゃん』
「あー…そういえば…」
まだまだ拙い技術で、もはやバレーボールと呼んでいいのか分からないようなものだったけれど、あの頃が一番純粋にバレーを楽しめていたのかもしれない。
「懐かしい」ともう一度呟くと、鉄朗の大きな手が頭の上に乗せられた。
『ちょっ…な、なに?』
「昔から、よくこうして名前を撫でてたなぁ、と」
『…そうだったかな?』
「そうだっただろ」
そうだったかもしれない。
鉄朗は、私のお兄ちゃんだったから。
そう、“だった”んだ。今はもう、お兄ちゃんとして見ちゃダメなのだ。
大きな手のひらから伝わってくる優しさは変わらないのに、向けられる笑みが無性に恥ずかしい。
鉄朗ってこんな風に笑う人だった!?
“男の人”の笑みを浮かべる鉄朗から視線をずらすと、ずらした先には赤葦くんが。
「…黒尾さんと苗字さんって、なんか、凄い仲いいね」
『…そうかな?親戚だし…』
「俺も従兄弟いるけど、そんな感じじゃないからちょっと意外でさ」
そうなのだろうか。
キョトンとして鉄朗の方を見れば、何故かさらに頭をグシャグシャに撫でられた。
髪の毛めちゃくちゃだ。
「うらやましいだろ?仲が良い親戚がいて」
「おう!苗字ちゃんみたいな可愛い従姉妹とかメチャクチャ羨ましいぜ!!」
「いいなー!」と声をあげる木兎さん。
なんだか恥ずかしい。
苦笑いを溢して、再び赤葦くんの方を見ると、彼はちょっとだけ納得いかなそうな顔をしながらも、木兎さんに「そうですね」と頷いていた。
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