54話 京谷 と 再会
仁花ちゃんが入部して、彼女のジャージが届いた翌日。
テストに向けて勉強をしようとファミレスにいると、中学時代の友人が入ってきて、思わず声をあげた。
『賢太郎くん!』
「っ!」
ギョッとした彼は勢いよく此方をみた。
やっぱり、京谷くんだ。
変わらない彼に手をふると、不機嫌そうな顔でこちらにやってきた。
「…何してんだ?」
『テスト前の勉強』
トントンと机の上の勉強道具を指して見せると、京谷くんはそれを見て顔を歪めると、私の前に腰をおろした。
『…賢太郎くん、まだ戻ってないの?』
「は?」
『青城のバレー部!』
面倒そうに眉をしかめた賢太郎くんは、答えることなくメニューへと視線を落とした。
この様子だとまだ戻ってないようだ。
『…及川さんも岩泉さんもいい人なのに…』
「お前…なんでその二人知ってんだよ?」
『え?…ちょっとね』
誤魔化すように笑うと納得できなそうな顔をした賢太郎くん。
けど、それ以上は聞いてこない。
それが彼だ。まぁ、単に面倒なのかもしれないけど。
でも、そんな賢太郎くんがいたから、今の私がいるんだ。
『ねぇ、賢太郎くん。まさかこのままやめちゃったりしないよね?』
「関係ねぇだろ」
『あるよ。賢太郎くんにはバレー、やめてほしくない』
ジッと彼を見ていると、店員さんがやってきた。
賢太郎くんが注文を言うと、離れていったその人を見ていると、「名前、」と久しぶりに名前を呼ばれた。
「…戻ったな、お前」
『え?』
「ウザいくらいにクソ真面目で、バレーの事になるとうるさくなるヤツに」
『…だとしたら、賢太郎くんのおかげだよ』
「ありがとね、賢太郎くん」そう言って彼を見ると、眉を寄せて視線をそらされた。
相変わらず仏頂面だけど、そんな彼の耳は微かに赤くなっている。
やっぱり変わらない。
『あ、話すり替えられる所だった。それで?いつ戻るつもりなの?』
「…さあな」
『あのね…』
「…うるせえな。いつかは戻るつもりだよ」
なんだか投げやりな返事だなぁ。
けど、戻ると言ってくれたわけだし。
「約束だよ?」と念を押していうと、返事の代わりに手のひらをヒラヒラとさせてきた。
ちょっと心配。
「…お前、烏野だったよな?」
『え?…うん』
「うちも白鳥沢も蹴ってまでそこに行った価値はあったのかよ?」
『…あったよ。私、烏野に入ったことに後悔なんてないよ』
「…そうか」と返してきた賢太郎くん。
その顔には少し安心したような色が見えた。
ああ、心配かけていたんだな。
『賢太郎くんとやるのも楽しみにしてるんだからね!』
「…おう」
あ、今度はちゃんと返してくれた。
嬉しくなって、ふふっと笑うと賢太郎くんに睨まれた。怖くないけどね。
「…後で泣き見るなよ」
『こっちの台詞だよ』
笑って見せると賢太郎くんもフッと小さく笑みをこぼした。
なんだか中学時代を思い出す。
懐かしいなぁ、と目を細めたとき、賢太郎くんの視線が私から少し下がった。
『なに?』
「…勉強、いいのか?」
あ、とテーブルの上に広げているノートを見る。
そうだった、勉強するために来たんだった。
慌ててシャーペンを握って勉強を始めると、賢太郎くんはまた小さく笑っていた。
何笑ってるの?
そう言おうと思ったのだけれど、賢太郎くんのこぼした笑みがあまりに優しいものだったので何も言えなかった。
ちょっと恥ずかしくなって、赤くなった頬を隠すように一生懸命シャーペンを動かしたのだった。
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