53話 谷地 と 話す
「うぅ…お、重い…」
どうも。現在、男子バレー部に仮入部中の谷地仁花です。
実はさっき、昼休みに武田先生に本入部届けを提出すると、他の先生からお手伝いを頼まれました。
なので今私は、先生に頼まれて教材を運んでいるのですが…腕が悲鳴をあげています。
お、重いいいいいいいいいい!
ああああああ、これ、ちゃんと運べるのでしょうか。
もし、この教材を運べなかったら…退学!?
ゴクリと唾を飲んで深長に足を運んでいると、ふと、重さが急に軽くなった。
「お、落とした!!??」
『!?ご、ごめんね!ビックリさせちゃった!?』
「あ…苗字先輩…?」
隣を見ると立っていらっしゃったのは、なんと先輩マネージャーの苗字先輩でした。
その手には、私が持っていた教材がある。
なんと、半分持ってくれたらしい。
「せ、せせせせせせ先輩っ!!も、持てます!ひ、1人で持ちます!!」
『あはは。いいのいいの。一緒に運ばせてよ』
「ね?」と笑う先輩はとても綺麗だ。
思わず頷いてしまうと、先輩は満足そうにうなずいた。
な、なんてお優しいのでしょうか!
「どこに運ぶの?」「し、資料室です!」「分かった。行こう?」は、はい!」
ふふっと笑う先輩には、三年生の清水先輩とは、また違った美しさがある。
『…仁花ちゃん、入部の件…考えてくれた?』
「あ…じ、実は、さっき本入部届けを出したんですっ!」
『ホント!?』
「は、はいっ…お役にたてるかは分かりませんが…」
ちょっとだけ下げた視線。
思い出したのは、昨日の日向との会話。
“じゃあさ、言えば?”
日向のおかげで踏み出せた一歩。
もちろん頑張るつもりだけれど、やっぱりまだ不安もある。
そんな私に苗字先輩は綺麗な声で言った。
『大丈夫。仁花ちゃんなら良いマネージャーさんになるよ』
えっ、と顔をあげると、先輩は柔らかな笑みを浮かべていた。
『仁花ちゃん見てるとね、なんだかこっちまで元気になれるんだ』
「そ、そんな事を私が!?」
『ふふ、うん。だからね、仁花ちゃんなら大丈夫。これからも皆を助けられるよ』
ニコッと歯を見せて笑った先輩はやっぱりとても綺麗で、可愛らしい。
そんな先輩に照れていると、いつの間にか資料室の前に着いてしまっていた。
『ここでいいんだよね?』
「あ、はい!」
ドアを開けて資料室に入り、教材を下ろした。
「あ、ありがとうございます!!」と先輩に頭を下げると、「気にしなくていいって」と先輩に頭を撫でられた。
『仁花ちゃん、お昼は食べたの?』
「あ、いえ、これから…」
『そっか。じゃあ食いっぱぐれる前に戻ろう』
行こう、と資料室を出ていく先輩の後を追って出ると、先輩が「あ、」と足を止めた。
ど、どうされたんでしょう?
『はい、これ』
「…あ、飴??」
『うん。最近持ち歩いてるんだよねー』
手のひらに乗せられた飴はもも味だった。
「お近づきの印?みたいな」とちょっと冗談ぽく笑った先輩。
そんな先輩にお礼を言うと、また頭を撫でられた。
こんな素敵な先輩と一緒にマネージャーができるなて、なんて私は幸せなのだろうか。
この飴は私の家宝にしよう。
そう誓って、ポケットに入れたのだった。
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