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49話 黒尾 と 電話 2


田中の家で勉強を終えて家に帰ると、ふと明日は東京のIH予選だったなぁ、と思い出した。

自分の部屋に入ってから携帯を出して、従兄弟とその幼なじみに「明日、頑張れ!」と送ると、すぐに返信がきた。
どっちだろう、と思っていると返信をくれたのは研磨くんの方で、「ありがとう」と簡潔なものだった。
それに顔を綻ばせていると、今度は着信音がなった。


『もしもし?』

「お前な、応援してくれんなら、せめて電話だろ」


第一声がそれか。
「ワガママだなぁ」と返すと「声が聞きたいんだからしょうがねぇだろ」なんて言ってきた。
電話で助かった。今、絶対顔赤い。


「しかも研磨にも一斉送信とか」

『研磨くんと鉄朗は二人で1人みたいなものだからいいかなって』

「やめろ、マジで」


クスクスと電話越しに笑っていると、呆れたようなため息をつかれた。
それから、
「調子は?」「まあまあ」「初戦、勝てそう?」「当たり前だろ」
なんて会話をしていると、「そういえば、」と鉄朗が思い出したように声をだした。なんだろう。


「お前、約束忘れてねぇだろうな?」

『約束?』

「次会うときまでに、他のヤツのもんになってたりしたらってやつ」


あ、と小さく声を出したと同時に思い出したのはGW合宿最終日でのこと。
あのとき、確かに鉄朗はそんな事を言っていた。
カアッと熱くなる頬を空いている手で押さえると、携帯から意地の悪い声が聞こえてきた。


「それで?名前チャンはちゃんと約束覚えてるよな?」

『お、ぼえてる…けど…。別に、誰かのものになんてなってないし…』


「へぇ〜?」とやけに機嫌が良さそうな声の鉄朗。
きっと電話の向こうではニヤニヤとした笑みを浮かべているのだろう。
「もういいでしょ!」と半ば無理矢理に話題を変えようとしたけれど、私の意地の悪い従兄弟はそれを許してはくれなかった。


「本当だろうな?」

『だから、本当だってば!』

「お前って超が付くほど鈍感だから、メチャクチャ心配なんだが」

『ど、鈍感じゃないし!』


さっきからなんなんだ。
本人には見えないと分かっていながらも、唇を尖らせていると「悪い悪い、拗ねんなって」とケラケラと笑いながら言ってきた。
全然悪いと思ってないし。


「あー…その、よく言うだろ。好きなやつはいじめたくなるって」

『っ!…そ、そういう事言うのって卑怯だよ!』

「ぷっ…ははははは、お前、今絶対赤いだろ!」


「あ、赤くないし!」「嘘だろ。あー、見れないのが残念だわ」「嘘じゃないってば!」「はいはい」

なんてやり取りをしながら鏡をみると、確かに真っ赤なっていた。なんだろう、ムカつく。
さっきよりも顔をむくらせていると、「ああ、あと」と鉄朗が思い出したように再び声をあげた。


「こっち、来るんだろ?」

『…東京合宿の話?』

「そうそう」

『行くよ、絶対』

「ははっ……なら、待ってるわ」


だから、急にそんな優しい声を出すのはズルい。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ高鳴った胸になんだか悔しくなっていると「どうした?」といつもの鉄朗に戻っていた。


『…別に。…あした、頑張ってね』

「おう。優勝したら、何してくれんの」

『何もしないし』

「そりゃ残念」


クックックッと喉で笑う鉄朗。
なんだか、とても楽しそうだ。
そんな鉄朗につられて笑っていると、下からお母さんの声がした。
どうやら、ご飯が出来たらしい。


『呼ばれてるから、切るね』

「おー、サンキューな」

『ふふ、うん。いい報告待ってるね』


通話終了ボタンを押して、ふぅっと息をはく。
私たちも頑張らなくちゃ。
遠い東京のライバルたちの健闘を祈りながら、明日からの練習への気合いを入れなおすのだった。


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