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47話 西谷 が 直球


『ち、が、う!!』

「「うぐっ」」


項垂れる二人にプリントを突き返すと、二人は再びそれを解き始めた。

武ちゃんが東京合宿の話を持ってきてくれてから3日。
その合宿に参加するためには、先ず期末テストをクリアしなければならないのだ。
大地さんの言いつけを守って、今日1日田中は授業中に寝ることはなかった。
けれど、それだけでこいつらは赤点回避はできないだろう。

ということで、昼休みも縁下と二人で馬鹿二人の先生をしている。


「…くそー…訳分かんねぇ…」

『今までしてなかった分の付けが回ってきたんでしょ、自業自得』

「う…自分だって縁下に数学教えて貰ってるじゃねえか!」

「いや、苗字は全然いいよ。アドバイス程度だし。それよりもお前らは自分の事に集中しろ」

「「…ハイ」」


頭を抱えて勉強する二人の横で、私も苦手な数学を縁下に質問している。
うーんうーんと唸る二人に苦笑いしながら問題を解いていると、トントンと肩を叩かれた。


『あれ?皆さんどうしたんですか?』

「いや、授業中に寝てないか確認をな」


現れたのは3年生の三人。
ああ、そういうことか。
そう頷いて田中とノヤを見れば「寝てません!」と二人揃って敬礼をしていた。


「名前も一緒に勉強してんの?」

『あ、はい。数学が苦手なので…』

「今さらだけど、名前って結構頭いいのになんで進学クラスじゃないんだ?」

「あ、コイツ先生に言って断ったんすよ」

『ちょっと!』

「え!断った!?」


驚いたように目を丸くした3年生達に曖昧に笑って誤魔化すと縁下が不思議そうに首を傾げた。


「けど、なんで…?」

『…進学クラスは授業のペースも早いから…数学が絶対分からなくなる気がして』


なるほど、と頷く縁下。
その横で「クソっ!嫌味か!」と眉を寄せる田中もノヤの頭をノートで叩くと、スガさんが後ろからプリントを覗き込んできた。


「名前は数学が苦手なんだなぁ」

『…はい…』

「じゃあ部活後の勉強会に参加するか?そうすれば俺達3年にも聞けるし」

『あ、いえ、その…部活後はちょっと用事があって…』

「?用事?」


頭にハテナマークを浮かべるスガさんに苦笑いして頷くと「用事って大丈夫なのか?」と今度は大地さんが心配そうな顔をみせる。
何が大丈夫じゃないのだろうか。
とりあえず、「はい?」と頷くとその場にいた全員にため息をつかれた。なぜ。


「部活後に用事って帰りも遅くなるだろ?」

『あ…だ、大丈夫ですよ?ちゃんも迷子にならずに帰れますから』

「いや、そうじゃなくてだな…変質者とか出たらどうするんだ?」


変質者?
思わずキョトンとして、次の瞬間「フフっ」と噴き出してしまった。


『そんな物好きいませんよー!』

「「「「「…はぁ」」」」」


ダメだ、全然伝わってない。
そう言わんばかりのため息をつかれてしまった。
うーん?何か変な事を言っただろうか。


「…あのな苗字、お前はもっと危機感を持て」

『危機感、ですか?』

「伊達工のヤツにも簡単に連絡先を渡してたし…色々と無防備すぎる」


「いいな」と念押ししてくる大地さん。
とりあえず頷いて返すと、また心配そうな顔でため息をつかれてしまった。
よく分からないけれど、そういう心配は潔子さんにこそした方がいいのではないだろうか。

「私よりも潔子さんが心配だけどな」「!確かに!!潔子さんは危ない!」「だよね」「けどよ、名前も可愛いからなぁ」「え?…ちょっとノヤ、そういう冗談はいいから」「?なに言ってんだ?可愛いじゃん、お前」

な、何を言っているのだろう。
久しぶりに勉強して頭がおかしくなったのだろうか。
ブワッと顔に熱が集まってきて、なんだか耳まで熱い。

それを隠すように俯くと、「名前?」とノヤが不思議そうな声をだした。


『…そ、そういう事をホイホイ女の子に言っちゃダメだよ?』

「そういう事?」

『か、可愛いとか…』

「なんでだ?」

『な、なんでって…か、勘違いされたらどうすんの馬鹿!』


ガタッと椅子の音をたてて立ち上がれば苦笑いした先輩たちからの視線を感じた。

「?何処行くんだ?」と聞いてくるノヤに「飲み物買ってくるの!」と返して教室を出ていくと、後ろからいってらっしゃいという声がしたのだった。


「(ダークホース西谷…!)」

「(これだから天然は!)」


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