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45話 試合 が 終わる


セットカウント 2―1
烏野高校 三回戦敗退

「お疲れ!!」「いい試合だった!」
嶋田さんたちの労りの言葉を聞きながら私も皆へ拍手を送った。


1―1で迎えた3セット目。
差が開くこともなく一進一退の攻防が続くなか、烏野はいまいち流れが掴めなかった。
コーチはそんな流れを変えるために山口くんを投入したりもした。
けれど、


『日向くん、影山くん…』


俯く二人の姿に胸が苦しくなった。
けど、泣いちゃダメだ。
これで終わりじゃない。

この試合で影山くんは“孤独な王様”ではなくなった。
負けて良かったなんて欠片も思ってない。
でも、今日影山くんが得たものは負けた事よりも大きな財産となると思う。








『…大地さん、旭さん、スガさん』

「…名前…」


嶋田さん達と別れて下へ行くと3年生がいた。
眉を下げて笑う三人に鼻の奥がツンとした。
目に溢れてきそうなものをなんとか抑えて笑顔を作ると、三人の顔が歪んだ。


『…お疲れ様です、皆さん』

「…ああ、苗字も」


「お疲れ」ポンっと頭に手をおいてきた大地さん。

泣くな、泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな。

顔をあげて大地さんを見ると、大地さんの目が柔らかく細まった。


「行こう、コーチが待ってる」

『…はい』


歩き出した先輩達。
のせ背中が遠くへ行ってしまわないように、私は三人を追い掛けた。








「―走ったりとか、跳んだりとか、筋肉に負荷がかかれば筋繊維が切れる。試合後の今なんか筋繊維ブッチブチだ。それを飯食って修復する。そうやって筋肉がつく。そうやって、強くなる。だから食え」



コーチに連れてこられたのは“おすわり”という居酒屋さんだった。

「ちゃんとした飯をな」コーチの言葉に大地さんが手を合わせてそれに続くように皆で手を合わせた。


「いただきます」

「「「「いただきます」」」」


会話のない食事。
こんなに静かな烏野バレー部は珍しい。

モグモグとはしをすすめていると、鼻を啜るような音がした。
それはだんだんと増えていって、隣を見ると潔子さんの目も赤くなっていた。

グッと唇を噛んで泣くのを堪えると、コーチの手が伸びてきて頭を撫でられた。
それになんとか笑顔を返すと、コーチは眉を寄せたのだった。


それからご飯を食べ終えた私たちはお店の女将さんにお礼を言って店の外にでた。
外へ出ると、コーチが明日の朝練は休みだと言って解散を告げた。

私も家へ帰ろうとしたとき


「苗字、」

『?はい』

「お前はちょっと残れ」


なぜかコーチに引き留められてしまった。
不思議に思いながらも帰る皆の姿が見えなくなるまで見ていると、最後に武ちゃんが帰っていった。

どうして私は残されたのだろうか?
コーチに目をやると、「行くぞ」も歩き出してしまい慌ててそれについて行った。


「ホレ」

『あ、ありがとうございます…』


コーチが足を運んだのはすぐ近くにある小さな公園で、そこにあるベンチに座って待っているように言われた。

言われた通りにしていると、ペットボトルのお茶を持ったコーチが帰ってきて、それを手渡された。


『…あの、なんでここに?』

「お前、嶋田からマッサージとかの聞いたんだろ?」


“苗字さん、テーピングとかマッサージとかに興味ない?”
確かに嶋田さんにそんな事を言われた。

頷いてみせると、コーチは自分用に買ってきていたのかコーヒー缶を開けて一口飲んだ。


「これから先、あいつらは強くなるためにもっと練習をする必要がある。そうなれば、身体への負担も今まで以上かかるだろう」

『…はい』

「ストレッチはそれを和らげる効果はあるが…それ以上にちゃんとしたマッサージは身体への負担を和らげることができる。だから苗字、もしお前が『やります』!」

『わたし、マッサージの勉強します』


烏野は負けてしまった。
だけど立ち止まってはいられない。
これからもっと強くならなければならないのだ。
その手伝いができるなら、私は喜んでする。

ジッとコーチを見ていると、コーチは嬉しそうに笑った。


「なら、お前の“先生”にはちゃんと話しておくからな」

『え…』

「自分で学ぶよりも、誰かから学んだ方が効率もいいしなにより確実だ。俺のじいさんの知り合いたが、イイ人だから安心しろ」

『はいっ!頑張ります、わたし!』


よし、これからはもっともっと頑張ろう。
烏野が強くなるために。

ギュッと手を握っていると、再びコーチの手が頭の上に乗せられた。
なんだろう、とコーチを見ると心配そうな瞳と目があった。


「頑張ろう、って気持ちは大切だが…気負い過ぎるのは逆効果だ」

『っ』

「“自分なんかよりも3年生や選手の皆の方が辛いに決まってる、だから泣いちゃダメだなんて思ってるんじゃねぇだろうな?」

『そ、それは…』

「馬鹿か!」

『っ!』


頭をグシャグシャにされたかと思えば、その手が今度は後頭部に回ってきてグイッと引き寄せられた。
それに従っていると、タバコの匂いのする黒いジャージが目に写った。


「悔しかったら泣く、んな当たり前の事なんで分からねぇんだ」

『こー…ち…』

「我慢すんなよ、馬鹿」

『っ…』


ヒックヒックと漏れた嗚咽。
それと同時に頬を滑る涙。
わんわんとまるで小さな子供のように泣く私をコーチはずっと撫でてくれたのだった。








『…あの、すみませんでした…』

「?何が?」

『いえ、その…気を使ってもらっちゃったし、それに…コーチのジャージを濡らしてしまったので…』


私が泣き止んだあと、コーチは送ってくれると言い出した。
最初は断ったけれど、押しきられてしまい今は二人ならんで歩いている。

チラリと隣のコーチを見上げると「気にすんな」と笑ってくれた。
私はいい仲間だけでなく、いい指導者にも出会えた。
なんだか嬉しくなって、ふふっと笑ってしまうとコーチが頭にハテナマークを浮かべた。


「?どうした?」

『いえ、その…私…コーチのような、素敵な人にバレー部の指導をして幸せだな、と思って』

「はぁ!?」


何を言っているんだ、とばかりに凝視してくるコーチに笑顔を返すと、何故か目を丸くされてから顔をそらされてしまった。
そんなに酷い笑いかただっただろうか。


『あの、コーチ。これからも私たちをよろしくお願いします!』

「…おう、当たり前だろうが」


立ち止まって頭を下げると、少しだけ顔の赤いコーチは笑顔を返してくれた。
どうして顔が赤いのかは分からなかったけれど、コーチが歩きだしてしまったので慌てて追い掛けたのだった。


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