44話 嶋田 と 話す
だんだん、自分の首が絞まって行く様に感じる。
でも不思議と落ち着いている。
まだ焦りに集中が濁されていない。
理由はきっと“目的”がハッキリしているからだ。
“あたし…スガさんのトス、好きです。 相手を思いやる柔らかいスガさんのトスが好きです”
あぁ名前の声がする。
俺のトスを好きだと言うあのときの声が。
「っしゃあああ!!!」
「金田一ナイスブロック!」
「―…」
相手のブロックに日向が捕まってしまった。
今のトスは少しゆっくり過ぎたな。
悪い、も日向に謝っているとベンチが動いたのが目に入った。
あと1プレー……かな
「スガ」
「!」
「次の一本俺に寄越せ。絶対決める」
「…!おう!! 」
俺はいい仲間を持った。
相手のサーブを大地が拾い、それを旭にあげる。
名前が好きだと言ってくれたトスをあげる。
『っ、ナイスキー!!!』
「すっげー…」
旭がスパイクを決めたすぐ後に交代の笛が鳴った。
影山と少しだけ会話をしてから先生の元へ行って、ウォームアップゾーンへ。
『スガさんっ!!』
「?」
『ナイストスですっ!!!』
向けられた拳と笑顔。
それに自分も笑って拳を向けると名前は微笑んでくれたのだった。
side主人公
調子を戻した影山くんの力が加わり、2セット目は烏野がとることができた。
『あれ?滝ノ上さんは…?』
「え?」
横を見るといつの間にかいなくなってしまった滝ノ上さん。
トイレにでも行ってしまったんだろうか。
首を傾げていると、「あのさ苗字さん」嶋田さんに声をかけられた。
『?なんでしょう??』
「今言うのも変な話だけど…苗字さんさ、元々プレーヤーだった?」
『…はい』
「やっぱりそうかぁ。やけに詳しいなって思ったんだよね。けどなんでマネージャー?高校でもプレーしたいとかと思わなかったの?」
嶋田さんは不思議そうに首を傾げた。
薄い笑みを浮かべると、その表情が心配そうなものへと変わった。
『…怪我したんです。中学のときに』
「……ごめん」
『いえ、いいんです。変な言い方ですけど、怪我をしたから今こうして烏野の皆と一緒に戦えてるんですし』
「気にしないで下さい」そう笑うと嶋田さんは申し訳なさそうな顔をした。
やっぱり人に話す話ではないな。
内心苦笑いをしていると、嶋田さんが思い付いたように口を開いた。
「苗字さん、テーピングとかマッサージとか興味ない?」
『え?…テーピングは一応できますけど…マッサージはさすがに素人ですね』
「じゃあさ、勉強してみない?」
え、そう言おうとしたときピーっと3セット目の始まりの笛が鳴った。
「また後でね」と眉を下げて笑う嶋田さんに頷いてからコートへ視線を移した。
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