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42話 田中 の 声


“田中はさ、うちのムードメーカーだよね”


いつだったか、名前にそんな事を言われたことがある。


“俺が?”

“そっ!田中が”

“おいおい、そりゃノヤっさんの間違いだろ?”

“そんな事ないって。田中の馬鹿みたいな元気のよさとか大きい声とかに皆救われてるよ、きっとね”

“ば、馬鹿みたいとはなんだよ!?…まぁでも…そんな風に言われて悪い気はしねぇな”


「ガハハ」と大口開けて笑うと、名前も何が嬉しいのかクスクスと笑っていた。









『田中あああああ!!』


多分気のせいじゃないと思う。
及川のサーブが自分に飛んできたと気づいたとき、名前の声が聞こえたのは。


「ぐっ」


ドキャと弾いてしまったボール。
受けた腕がジンジンと痛む。
なんつーサーブだよ。

ギリッと奥歯を噛んだとき、ピーっと審判の笛がなり、タイムアウトがとられた。


「上でいい!セッターに返らなくても上に上げさえすればどうとでもカバーできる!」

「うす!!」


コーチの言葉に頷いてからゆっくり深呼吸をする。
大丈夫だ、とれる。タイムが明けてコートに入ると、もう一度息をはいた。

及川が打ってきた凄い勢いのボールをなんとか上げたが、上げすぎたせいでダイレクトに返された。


「オッケーオッケー。ちゃんと上がってるぞ田中!」

「…うす!」


大地さんの声に返事をしてからまた構えてサーブを待つ。心臓がうるせぇ。
ビビってねぇぞ、チクショウ!!

三度目に打たれたボールは正面に飛んできた。
それをなんとか上げたけれど、セッターに返す事は出来なかった。クソっ!


「田中さん!!!」

「!」


日向が上げてくれた二段トス。
そこでハッとしてスパイクに入った。
けれど、


「っ」

『(ドシャット!!!)』


打ったボールは見事な程にブロックに捕まり、コートへ落ちた。俺のせいで使われる二度目のタイムアウトにベンチへ行こうとしたとき、ふと名前を見ると、目があった。


“そんな事ないって。田中の馬鹿みたいな元気のよさとか大きい声ときに皆救われてるよ、きっとね”


頭に過った名前の声にスッと頭が冷えた。


「たなっ「フンヌァァァア!!!」!!?」


思いっきりよく頬を叩けばビターン!!と乾いた音が響いた。
驚いた顔を向けるコーチや先輩たちバッと勢いよく頭を下げた。


「スンマセンしたっっ!!」

「!?」

「龍!!しょうがない事もあんだろ!今のトスはムズかったし3枚ブロックだったし、俺もフォロー…」

「俺、今トス呼ばなかった!!!」

「!?」

「一瞬ビビったんだ、ちくしょう!!!」


認めたくねえけど、俺は及川のサーブにビビった。
だから、トスを呼べなかったんだ。
情けねえよ、マジで。
でも、落ち込んでる暇なんて今はない。


「後悔は試合終わってからクソ程する!!大して取り柄も無え俺が、てめーのミスに勝手に凹んで足引っ張ってちゃどうしようもねぇ!!!」


俺にはノヤのようなレシーブも旭さんほど強いスパイクも打てないけど、アイツは言ってくれた。俺は烏野のムードメーカーだと。
それなのに、ここで声出さねぇでどうすんだ!

「次は決めますっ」そう叫べば、パチクリと瞬きをしていたコーチがわはは!と笑った。


「今それを言えることが充分取り得だ!!!」

「!あっうス」


コーチの返しにちょっと驚いた。
そのあとの指示を聞いてから、また観客席に視線を向けると再び名前と目があった。

ニッと笑って拳を向けると、目を丸くした名前も笑って拳を向けてきて何かを呟いた。


“大丈夫”


多分、そう言っている気がした。


タイムが明けてからコートに立ったとき、もぅうるさいくらいだった心臓の音は落ち着いていた。


「サッ来ォォい!!!」


及川の三度目のサーブ。

“大丈夫”

耳に響いたアイツの声に背中を押された。
中途半端にするくらいなら…受け止めろ!!
ドっと胸にぶつかったボールはポロっと床に落ちそうだ。
くっそ…落ちる…
そう思ったときだった、


「!(日向!?)」

「ん…らァ!!!」


日向がカバーをしてくれ、それを影山が返した。
しかも、及川の所に。

すかさず返ってきた攻撃をノヤが拾い影山がカバーをあげる。


「レェェフトォォオ!!!」

「田中さん!!!」


ステップを踏んでジャンプを飛ぶ。
ヤベ、ブロック見えた。
空いているストレートに打ち込むとボールが相手コートに落ちたのが見えた。


「うおっしゃあああ!!!」


渾身のガッツポーズを決めたとき「ナイスキー!!」とアイツが叫んだ気がした。


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