40話 二口 が 謝る
見事に勝利を納めたうちは、着替えを済ませると次の対戦相手である青葉城西の試合を観戦している。
潔子さんとコーチの間に座って見ていると、チョンチョンと潔子さんに肩をつつかれた。
「?どうしたんですか?」「アレ」「え?」
潔子さんの指した方向は観戦席の後ろの通路。
そこに居た二人組に思わずあっ、と声を漏らしてしまい、それに気づいた皆も振り返った。
「っ!アイツ、伊達の…!」
今にも立ち上がって殴りに行きそうな田中。
「落ち着け」と田中の肩に手を置いた大地さんに「大地さん、あの、」と眉を下げると、意図を読み取ってくれた大地さんは微笑みながら頷いてくれた。
それに自分も頷き返してから立って、伊達の二人に近づくと、背中にやけに視線を感じた。
「…」
『試合、お疲れ様です』
視線を下げたまま合わせてくれない茶髪くん、もとい6番さんに苦笑いしていると、その隣にいた眉なしさん、もとい7番さんがペコリと返してくれた。
「……悪かった、」
『…』
「烏野は、弱くなんて、なかったよ。むしろ…」
「強かった、」どこか悔しそうな顔をしてそう言った6番さんに少しだけ驚いてしまった。ほんの少し頭を下げた彼と7番さんはチラリと伺うようにこちらを見た。なんだ、この人たちいい人じゃないか。
ふっと笑みを溢すと頭をあげた二人が目を見開いた。
『…不覚にも感動しました』
「え?」
『今朝会ったとき、はっきり言ってかなりムカついたのに…試合見てたら、なんだか毒気抜かれました』
「…」
『伊達工の皆さんも、強かったです』
「ありがとうございました」と頭を下げると6番さんがギョッとしてから「…こちらこそ、」と照れたように呟いた。
それを聞いてから顔をあげると7番さんに手を差し出されたので、それを握り返した。
やっぱりいい人たちだった。なんだか嬉しくなって頬を緩めていると「アノさ、」と6番さんが頬をかいた。
「名前、聞いていい?」
『あ、苗字名前です』
「…俺は二口堅治で、コイツは青根高伸な」
よろしくお願いします、と青根くんにいうと「年は?」と二口くんに聞かれたので「2年です」と答えると敬語はいらないと言われた。
「次は、負けない」
『…うん。うちだって』
悪戯っぽく笑って見せると二口くんもふっと笑う。
あ、この人イケメンさんだ。
柔らかくなった雰囲気の二人に内心ホッとして、「それじゃあ」と席に戻ろうとすると、「あ、あとさ、」二口くんに呼び止められた。
なんだろう、と首を傾げて振り向くと二口くんは少し顔を赤くしていた。
「あー…その…メアド、聞いてもいい?」
『え?』
「やっ、その…無理なら別に…」
『あ、いや…大丈夫だよ。携帯ある?』
「あ、」
しまったというような顔をした二口くん。多分携帯はないという事だろう。少しだけ可愛い。
ふふっと笑ってから、「ちょっと待ってて」と言って自分の席に戻り、鞄からメモ帳とペンを出した。
不機嫌そうに見てくる田中とノヤは無視だ。
自分のメアドを書いたそれを持って二口くんたちの所へまた戻って「はい」とそれを渡すと「…さんきゅ」と二口くんは小さく笑いながら受け取ってくれた。
それから今度こそバイバイ、と別れて観戦を始めようとしたのだけれど、やっぱり同学年の二人がうるさかった。
心配症だなぁ、と曖昧に返していると「苗字、」とコーチに声をかけられた。
『なんですか?』
「…あんまりホイホイと連絡先なんて教えるなよ」
『…』
「…なんだ、その驚いた顔は」
『いえ、まさかコーチに注意されるとは思ってなくて…』
「…気を付けます」と素直に返すと、はぁっとため息をついたコーチにグシャグシャと頭を撫でられた。
あ、髪ボサボサになった。
そんなやり取りを見ていた潔子さんと目が合うと「名前は人気者だね」と美しい微笑みをもらった。私なんかより潔子さんの方が明らかに人気者なんだけどなぁ。
うーん?と首を捻りながら潔子さんを見ると、クスクスと笑われてしまった。
それからコートの方に目を向けると、気のせいだろうか、サーブを打とうとしていた及川さんと目があった気がした。
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