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39話 鉄壁 を 崩す


ピーッと吹かれた笛は第一セット終了の合図。
烏野は見事に伊達工から第一セットを奪うことに成功した。凄い凄い、と騒ぐ女子バレー部の皆さんに相づちをうちながらも意識はコートへと向かう。

まだ、一セット取っただけだ。

ギュッと手に力を込めて再び手すりを握っていると、「ねえ、」と右側からかけられた声。


『?はい?』

「もしかして烏野のマネージャーさん?練習試合のときはいなかったような気がするんだけど…?」

『あ、はい。マネージャーですけど…』


「やっぱり」と笑ったその人は眼鏡をかけた人の良さそうなお兄さんで、その隣には金髪の長身のお兄さんもいる。

うちの試合を見に来たのだろうか?と不思議に思っていると、そんなあたしに気づいたのか、長身のお兄さんが「ああ、」と1つ苦笑いを溢した。


「俺ら町内会チームのメンバーでさ、この間君んとこの奴らと練習試合したんだよ」

「ちなみに、烏養とはチームメイトな」

『…ああ!』


なるほど、そう思って大きく頷いてみせると、二人はホッとしたように顔を見合わせた。

町内会チームとの練習試合、それは旭さんと西谷が戻ってくるきっかけとなったものだ。
残念ながらあたしは見ることが出来なかったけれど、潔子さんの話によると随分と有意義なものだったらしい。
その影響もあって、山口くんは新しくジャンプフローターを覚えようともしているし。


『あの、ありがとうございました』

「え?」

『町内会チームの皆さんとの練習試合がきっかけで、こうして今の烏野がいるんです。だから、言わせて下さい』


「ありがとうございました」と今度は頭を下げると、「いやいやいや、そんな畏まって言われるほどの事じゃないって!」「ほら!頭あげろ!」と慌てたような声で言われたので、ゆっくりと顔をあげた。


「にしても、あん時の練習試合にはいなかったよな?」

『はい、ちょっと私的な事情で…』

「へー…あ、俺は嶋田ね」

「俺は滝ノ上な、」


「よろしく、」と笑うお二人に自分も名前を言って「よろしくお願いします」と軽くお辞儀をしたところで、ピーっと2セット目開始の笛の音がした。

嶋田さん達からコートに視線を戻すと、皆は背番号チェックを受けていると所だった。


『ローテーション少し回してますね』

「あの七番とチビちゃんを少しでもあてないようにするためだろうね」


嶋田さんの言葉に、そういえばコーチが大会前に「変人速攻も相手が慣れてしまえば意味がない」と言ってしたのを思い出す。なるほど、それでか。


点差が開かずに進んでいく試合。
そして終に、烏野は24点、伊達工は21点となった。マッチポイントだ。
手すりを握る手に力が入るのが分かる。


『日向くん、ナイサー!!』

「っ!あっ!」


後衛に下がってきた日向くんはサーブミスをした。
苦笑いしていると、嶋田さんたちと目があった。
二人も似たような表情をしていた。

ウォームアップゾーンに日向くんが走っていくのを見てから、コートに視線を戻すとちょうど月島くんが速攻を打つところだった。
リベロに拾われたそれは、速攻としてこちらに返された。
「くっ」田中がなんとかそれをあげると少しだけ乱れたレシーブを影山くんは旭さんにあげた。


『旭さんっ!!』

「っ」


ドガっと相手のブロックに当たったそれはこっちのコートの後ろへと飛ぶ。
ヤバい、後ろはがら空きだ。
「カバアアアア!!」そう叫んだとき、目立つオレンジ色のユニフォームの彼がボールを拾った。


『ノヤ…!!』


ノヤが拾ったボールは影山くんが旭さんに二段トスであげる。
起き上がったノヤ自身もすぐさまブロックフォローに入った。


「押し合い…!」

「負けんな、ロン毛兄ちゃん!!」


ギリギリと空中で押し合う伊達のブロックと旭さん。
けれど、片手で押していた旭さんが押しきられてしまった。マズイ。

サッと自分の顔から血の気が引く。
ここで落としたら…流れを持っていかれる。

やけにスローモーションに見えるボールを見つめていると、


「っ足!?」

『あっ!!』


うちのリベロは私の想像を遥かに超えていた。
恐らく反射的なのだろう。
ノヤは足でボールを拾ったのだ。


「戻るの早い!」


道宮先輩の言った通り、旭さんはすぐに助走をとった。
「もう一回!!」「決まるまでだ!!」スガさんと旭さんの言葉に影山くんからフンワリ柔らかなトスがあがった。

ゴッと音がしたそれは相手のブロックにあたり弾かれたあと、ネットにのった。
落ちる。
じっとそれを見ていると、ゆらりと傾いたボールはゆっくりとコートに落ちたのだった。

ピピー!!

第2セット 25対22

勝者、烏野高校。

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